移動支援、生活に即して 高齢者の免許返納、促進策さまざま [福岡県]

高齢者が乗り降りしやすいよう、小さなステップをドア前に置く。気配りしながら運行する「大刀洗校区巡回バス」
高齢者が乗り降りしやすいよう、小さなステップをドア前に置く。気配りしながら運行する「大刀洗校区巡回バス」
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受け取ったタクシー利用券を確かめる小野恒子さん(左)と豊実さん
受け取ったタクシー利用券を確かめる小野恒子さん(左)と豊実さん
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 高齢運転者による交通事故が社会問題化している。交通死亡事故全体に占める75歳以上の運転者の関わった事故の割合は2005年は7・4%だったが、15年は12・8%と急増している(警察庁調べ)。免許返納を促すため、高齢者が公共交通を使いやすい地域社会づくりを進めようと、さまざまな施策が取られている。小郡市と大刀洗町で現状を探った。

小郡市、タクシー券贈る

 小郡市は6月1日から、運転免許を自主返納した70歳以上の市民に1万円分のタクシー利用券または交通ICカードを贈る支援事業を始めた。28日現在で60人が申請、市協働推進課は本年度200人の申請を見込んでいる。

 21日には申請第1号である夫婦に、加地良光市長が直接タクシー券を手渡すイベントがあった。同市三沢の小野豊実さん(82)と恒子さん(80)は娘夫婦や孫と同居しており、返納を勧められた。「農地を貸し出し、遠くの畑に行くこともなくなったけん。無事故のうちに返した」という豊実さん。恒子さんも「私は運転がへたくそで。ニュースで見た事故を起こした人と年も近いけん、もう運転はよかたいと思って」と話す。

 ただ、タクシー券の配布は1度まで。券も20回弱で使い切る計算。「もっと支援があるとよかばってん…」と恒子さんは不安がる。

 免許返納後、小野さん夫婦にとって、公共交通機関が移動の生命線となる。小郡市や自治会が運営するバスはどうか。現在、小郡市内では7ルートのコミュニティーバスと2校区で自治会バスが走っている。ただ、コミュニティーバスは乗り継ぎが必要など利便性に課題があり、市はルートなどの見直しを検討している現状だ。

 加地市長は小野さん夫婦に語り掛けた。「行政としてどう移動手段を確保するか。ストレスなく移動できる仕組みを市民とつくるため、意見をください」

大刀洗町、バス運行に知恵

 利用者の意見を反映させた事例も出てきている。

 大刀洗町では新たな「校区巡回バス」の取り組みを住民たちが始めた。昨年12月から大刀洗校区の南部コミュニティーセンターを拠点に、週3回、午前中3便が校区内を回っている。

 特徴は、目的を通院と買い物に絞ったこと。午前9時すぎ発の1便を「通院と買い物」、同10時すぎ発の2便を「買い物」、同11時発の3便を「帰宅」とし、集落をくまなく回りながら、スーパーや診療所に向かう。運転手は自営業や農業の合間を縫って主に3人のボランティアが務める。運賃は無料。車は町から借り、燃料費など必要経費はセンターの地域づくり活動費でまかなっている。

 今月中旬、同乗すると、10人乗りのワゴン車は間もなく満員になった。スーパーへ向かう男性(88)は「90になって運転しよったらえすか(こわい)でしょうが。家の近くは店も交通もなかけん、喜んどっとですよ」とほほ笑む。

 「おふくろも足の悪かけん、車の大切さは分かる」。運転手の堀内弘樹さん(53)は週1度ハンドルを握る。停留所は決まっているが、融通を利かせてなるべく自宅近くまで車を寄せる。「交通弱者にあんまり歩かせたらいかんでしょ」

 現在の巡回バスは、試行錯誤の末に生まれた。大刀洗校区は西鉄や甘木鉄道が通る他の校区と異なり、公共交通がない。「ならば自分たちでコミュニティーバスを動かそう」と2013年と15年に各2カ月間試行したが、その際は1日平均約4人と客が伸び悩んだ。

 「町全域、駅も回って、風呂敷を広げすぎた」とセンター長の古賀世章(としあき)さん(68)は振り返る。近隣事例も視察し「一番困っている通院と買い物」と、高齢者の活動時間に合わせ午前に運行時間を絞り込んだ。

タクシー業界も行政の支援策に呼応

 タクシー業界も高齢者支援に力を入れている。

 小野さん夫婦の暮らす小郡市で、市内に事業所のある3社が6月、免許返納後に交付される「運転経歴証明書」を提示すれば、料金を1割引きするサービスを始めたのだ。

 市の免許返納支援に呼応した。筑後地区タクシー協会長も務める「下田タクシー」(同市)の中川恵司社長は「交通手段が限られた地方においては特にタクシーの役割が大きい。割引する分、より多くの人に乗ってもらえたら」と期待する。

 小郡市では、移動手段の確保が難しい地域で代替策として移動販売などの検討も始まっている。

 将来的には自動運転や危険回避の技術革新が広まり、高齢運転者の事故リスクは減るのかもしれない。だが、その時代が来るまでは支援策の充実が欠かせない。高齢者の生活パターンやニーズに即した視点を大事に対策を進めてほしい。

=2018/06/30付 西日本新聞朝刊=

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