民俗芸能を新たに創作 大阪の演出家武田さん 八女市・笠原地区 [福岡県]

笠原地区の新たな民俗芸能を考案した武田力さん
笠原地区の新たな民俗芸能を考案した武田力さん
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外国人ボランティアとともに新たな民俗芸能を披露する武田さん(右)
外国人ボランティアとともに新たな民俗芸能を披露する武田さん(右)
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屋外で披露した後、住民に舞を解説した
屋外で披露した後、住民に舞を解説した
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 民俗芸能を一から創作する-。そんな風変わりな試みが、八女市黒木町の笠原地区で始まった。民俗芸能というと長年、地域に伝わり、神事や祭りなどで奉納されるものだが、新たに作り出すことなんて可能なのだろうか。山あいに広がる笠原地区に潜入した。

 創作に挑んだのは、大阪市在住の演出家武田力さん(35)。20代のころは欧州を中心に海外で活躍し、2011年に帰国。各地で継承されている日本固有の伝統芸能に興味を持ち、これまで滋賀県で一時途絶えていた「六斎念仏」と呼ばれる芸能を復活させるなど保存活動にのめり込んだ。「民俗芸能アーカイバー(記録者)」を自称する。

 笠原地区の地域づくりをサポートする九州大芸術工学研究院主催の「奥八女芸農プロジェクト」に応募し採用された。武田さんいわく、伝統芸能とは「その土地ごとの特性を反映した祈り」とか。「今の時代、新しい芸能が自然発生的に生まれるのは難しい。人口も減っている集落で、芸能が地域の人々をつなぐものになれば」と力を込める。

 武田さんは8月下旬から約1カ月間、同地区に滞在。地元の特定NPO法人「山村塾」とともに農作業をしながら地域住民と触れ合い、地域の歴史や生活様式などを聞き取った。農林業が住民の営みの中心であること、人口減少で徐々に活気がなくなっていること…。「人や自然の恵みに感謝し、新たな命の芽吹きを願う。そんな意味を込めたら」との思いで考案したという。

 果たして出来栄えはいかに-。9月中旬、山をわずかに切り開いた急斜面を特設舞台で実演会が催された。武田さんのほか、国際ボランティアとして来日していた香港とロシアの3人が登場。約20人の住民や大学関係者が見守った。

 「チリンチリン」。鉦(かね)の音が鳴らされ、ほうきを手にした男女が木の切り株の周りをゆっくりと歩く。タイミングを見計らって中腰になり、片膝に肘を乗せてほうきを構えた後、片足を背後に振り上げて前かがみになり、ほうきをくるくると回転させながら元の体勢に戻る。一連の動作を何度か繰り返した。

 武田さんによると、中腰のポーズは木を切る際のチェーンソーの構え。前かがみになるのは「のれんをくぐる」要領で現実から神聖な異界に足を踏み入れる様を表現したそうだ。「ほうきを回して、切り株に新しい風を送り、新たな命の芽吹きを願うんです」

 武田さんは「まださわりを作っただけ。もし興味を持ってもらえれば、地元の人たちで完成させてほしい」と期待する。見学した特定NPO法人の小森耕太事務局長(42)も「この地の特徴である山仕事をテーマに、丁寧に芸能を作ってもらった。動きも面白い」と高評価を口にする。「お宮の行事で奉納してみても良いかもしれない。定期的に武田さんに来てもらい、地域住民とともに温めて芸能を完成させたい」。新たな民俗芸能が地域に親しまれる日を思い描いた。

=2018/10/06付 西日本新聞朝刊=

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