84歳の新入生 川崎町の井上さん通信制の明蓬館高入学 農作業と両立「学ぶことは楽しい」 [福岡県]

20代の教師にパソコン操作を教わりながら、インターネット授業を受講する井上継信さん(左)
20代の教師にパソコン操作を教わりながら、インターネット授業を受講する井上継信さん(左)
写真を見る

 全国広域通信制の明蓬館高(川崎町)に今春、同町の井上継信さん(84)が入学し、高校生活を満喫している。「いくつになっても学ぶことは楽しい」と笑顔の井上さん。孫より年下の教師に、授業で必要なパソコン操作から教わるが「学習しようという意思さえあれば、先生は何歳でも先生」ときっぱり。教員たちも「人生の大先輩が学ぶ背中は他の生徒や先生たちのモチベーションを上げる」と励まされている。

 4月下旬、同校の教室。井上さんが真剣な表情でパソコンの画面に向かっていた。同校には、通学が困難な生徒も多く、学校や自宅で「ネット授業」を視聴し、テストを受けたり感想を書き込んだりして単位を取得していく。井上さんは住友直人教諭(26)や担任の藤井秀憲教諭(57)に操作を教わりながら英語を学んでいた。「be動詞の後ろにnotをつけると否定形になります」などの説明に「うん、うん」とうなずきながらメモを取った。

 井上さんは、1934年に現在の川崎町で生まれた。父は出征。終戦まで、5人きょうだいの2番目として母の農作業を手伝った。家庭の事情で中学校は2年生の途中で通えなくなった。数学が好きだったが、あきらめざるを得なかった。現在の宗像市にあった農事講習所に通い、18歳で当時川崎町にあった魚市場に就職。午前3時半に出勤し、市場内で冷凍のエビなどを売る仕事を60歳まで続け、2人の子を育て上げた。20~30代の孫3人にも恵まれた。

 働きながら福岡市内の高校の通信制課程も受講していたが、仕事の都合で卒業がかなわなかった。「ずっと悔しい思いをしていた」と語る。

 井上さんは、現役の米農家。毎朝5時40分に起床。散歩の後、近所の農産物直売所へ米を売りに行く。午前中は稲の手入れや趣味の書道を楽しみ、午後は週に数回登校する。5月以降の農繁期で、農作業を優先させつつ学校にも行きたいという。

 農業にも勉学にも手を抜かない井上さんは、学校関係者たちにもいい影響を与えている。現代社会や日本史を教える住友教諭は「井上さんこそ人生の『先生』だと思う」。同級生の松井蓮汰さん(15)は「違和感なく溶け込んでいる。人生経験をたくさん聞いていきたい」と笑顔を見せた。

 戦争を生き抜き、戦後は家族のために懸命に働き、高校生活を送れなかった井上さんは、80代になって「卒業」の夢を果たそうとしている。「まずは1科目ずつ頑張りたい」

=2018/05/09付 西日本新聞朝刊=

西日本新聞のイチオシ [PR]

西日本新聞のイチオシ [PR]