逮捕術って何?記者が体験してみたら…わずか10秒で決着 [福岡県]

模擬試合で、男性署員(中央)から胴に蹴りを受け、よろめく記者(右端)
模擬試合で、男性署員(中央)から胴に蹴りを受け、よろめく記者(右端)
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逮捕術の練習や試合では布やゴムなどで作られた(上から)警杖、警棒、短刀の用具を使う。想像以上に硬く、青あざができることも多いという。
逮捕術の練習や試合では布やゴムなどで作られた(上から)警杖、警棒、短刀の用具を使う。想像以上に硬く、青あざができることも多いという。
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 筑豊総局の警察担当になって半年。毎朝、飯塚署で耳にする「ヤアーッ」という掛け声が気になっていた。幹部によると、各警察署では署員が日々、柔道や剣道、そして逮捕術の稽古に励んでいるという。「逮捕術って何だろう?」。今まで聞いたことがなく、詳しくたずねていると、署で体験させてもらえることになった。11月上旬、3階にある武道場におじゃました。

 取材に応じてくれた刑事二課の黒木英雄さんによると、逮捕術とは、容疑者が暴れるなどした時、動きを封じ、取り押さえるための技術。あらゆる武術の要素が融合しているという。試合では「徒手」のほか、「警棒」「短刀」「警(けい)杖(じょう)」を使用。短刀を持つ犯人に警棒で対抗することを想定した「短刀対警棒」など“異種対決”もある。胴など決められた部位を打つだけでなく、蹴ったり投げたりしてもよく、1本の取り方はさまざまだ。

 軽く体をほぐした後、道着の上から面や胴、小手などの防具を身に着け、練習に臨んだ。

 まず2人一組となり、最も基本的な用具である警棒で互いの肩をたたく。男性署員に「遠慮せず思い切りたたいてください」と促され、恐る恐る肩を狙うと、黒木さんから「甘い、絶対に一撃で決める覚悟で!」とげきが飛んだ。中途半端な攻撃では、手数が増えるだけでなく、犯人の怒りにつながる可能性もあるという。

 次は、実戦や試合で反撃を受けることを想定した練習だ。男性署員に警棒で右肩をたたいてもらうと、バチンッという大きな音とともに肩に痛みが走り、衝撃が頭に伝わって視界が揺らぐ。次は腹部に蹴りを入れてもらう。「ううっ…」。思わず後ろに倒れ込んでしまった。最後の小手は痛みが最も強く、しばらくしびれが取れなかった。

   ▽    ▽   

 いよいよ「警棒対警棒」による模擬試合。逮捕術は制限時間3分で、2本先取した方が勝ちだそうだ。

 1人目の女性署員は警棒をたたき込むスピードがとてつもなく早く、肩で2本連取される。敗戦までわずか10秒。2人目の女性署員も警棒さばきが巧みで、小手を防ごうとした瞬間、がら空きの胴にたたき込まれた。3人目の男性署員には肩の辺りをたたかれた衝撃でよろめく間に、胴に蹴りを入れられた。いずれも完敗だった。

 中学時代、テニスで全国大会に出場した経験があり、体力に自信がない訳ではなかった。それでも署員の素早い動きと力強さに全く太刀打ちできず、練習後はあちこちが痛く、ふらふらになってしまった。

 「結構疲れるでしょう」。黒木さんは優しく声を掛けながらこう続けた。「でも、体を張って市民の皆さんを守るためには、このくらい鍛えないといけないんです」

 現場では、警察官が犯人を取り押さえようとして犠牲になるケースもあるという。逮捕術の全国大会の出場経験がある池永英雄署長は「自身の身を守るためにも練習に励んでほしい」と、署員に呼び掛けているそうだ。

 署員は週1回、必ず1時間は逮捕術の訓練に取り組むという。市民や街の安全を守るためどれだけ努力を重ねているのか。感謝の気持ちでいっぱいになった。

=2018/12/5付 西日本新聞朝刊=

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