無職になった元飲食店マネジャーが見つけた答え/スタートアップ都市・福岡でグルメサイトに挑む [福岡県]

「La Vita」の魅力をアピールする松岡耕平さん
「La Vita」の魅力をアピールする松岡耕平さん
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「La Vita」のサイト。スマートフォン向けにすることで制作経費を抑えられた
「La Vita」のサイト。スマートフォン向けにすることで制作経費を抑えられた
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 ITベンチャーが次々に生まれ、開業率日本一を誇る福岡市。「スタートアップ」と聞くと華々しいが、そこに至るには苦境も挫折もある。この夏、たった1人で地元グルメサイトを立ち上げた松岡耕平さん(42)の場合もそうだった。マネジャーを務めたイタリア料理店が閉店し、無職からの再出発。もがく日々の中で、彼が見つけた答えとは-。

 松岡さんは今年8月、グルメサイト「La Vita」(ラ・ヴィータ=イタリア語で人生、暮らし、命の意味)を開設。福岡県内の飲食店のお薦め料理や店舗情報を中心に、地域のイベント、ニュースも発信している。だが、ネットビジネスの知識も人脈も、全くゼロからの出発だった。

 飲食店の経営に興味があった松岡さんは30歳を前に転職し、福岡市・天神の百貨店のテナントだったイタリア料理チェーン店で働き始めた。初めは「勉強のつもり」だったが、食材選びから接客、経理まで任されるうちに店や仲間への愛着が増していった。

 ところが、経営再編に伴う閉店の話が持ち上がる。松岡さんは大阪の本社に押し掛け、社長に存続を直談判。「骨をうずめる覚悟」で店の責任者であるマネジャーを引き受け、年間700万円ほどあった赤字を黒字に転換した。しかしその8年後、社長が交代したのを機に、店は福岡から撤退してしまった。

再出発を誓って転職するもなじめず、無職に。親に心配を掛けまいと、毎朝スーツを着て「出勤」し、ネットカフェなどで時間をつぶした。そんな時、雑談していた友人の一言にはっとした。「ネットのおかげで、店が自己プロデュースできる時代になったよね」

料理店にいた頃、松岡さんは大手グルメサイトを宣伝に使っていて、度々もどかしさを感じていた。

「店の自慢は旬の果物たっぷりのサングリア。でも大手サイトには高い掲載料を払っているので、1杯500円の商品では元が取れない。単価を上げるため、コース料理を前面に出していた。新しいメニューを載せたくても、サイト側が情報更新するので時間もお金もかかっていた」

そこで気づいた。「本当に伝えたい情報を伝えられていない」というジレンマは、他の店も感じているに違いない。彼らの自己プロデュースを手伝えないか-。事業の糸口が見えた気がした。

「自尊心はボロボロ。でも」

今は小さな店もSNS(会員制投稿サイト)を使っているが、個別の情報発信には限界もある。松岡さんは「それなら、それぞれの店のSNSを集めたようなポータルサイトを作ればいい」と考えた。

だが、自分のアイデアがものになるのか、立ち上げに必要な費用も分からない。企画書も名刺もないまま、ネットで「ウェブ制作会社」を検索して400社近くにメールを送った。

返信があったのは4社。その中で1人だけ「面白い」と言ってくれる人がいた。「とにかく人に会いまくれ」というアドバイスに従い、人が集まるところに出掛けては思いを伝えた。「誰が使うの」「現実的じゃない」と厳しい声が多かったが、語ることでアイデアは磨かれ、コンセプトが固まっていった。

「店が今発信したい情報を速く、低価格で」を実現するため、店側がスマートフォンで記事や写真を投稿すれば、最短5分で更新される仕組みに。雨が降り始めて5分後には「雨の日割引」を発信できる手軽さだ。ライターやカメラマンが必要ない分、掲載料は低く抑えられ、年額3万円以下に設定した。大手サイトなら少なくとも月額数万円だ。

加盟店は現在60店。飲食店だけでなく、スポーツクラブやエステ店などにも広がっている。しかし、生き残るためには、この1年で300店、2年目で1000店が必要。松岡さんは朝から晩まで飛び込み営業に駆け回っている。

「ほとんどが門前払い。自尊心はボロボロですよ」

でも20軒に1軒くらいは「波長」の合う人がいる。「へえ、前は飲食やってたんだ。頑張って」。小さな共感が少しずつ広がり、ファイナンシャルプランナーや歯科医など専門家約30人もコラムを提供してくれるようになった。

「地域密着で店もお客さまもウィンウィンのサイトにしたい。絶対、小さな店の役に立てるはず。そのためにできることは何でもする」

松岡さんの新たな人生は、まだ始まったばかりだ。

=2018/10/02付 西日本新聞=

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