旅の友、鍵は「読みやすさ」 駅ナカ書店員に聞く車内読書事情 [福岡県]

ブックスタジオ博多駅店の店頭に立つ書店員の金子恵さん(左)と畠江文代さん
ブックスタジオ博多駅店の店頭に立つ書店員の金子恵さん(左)と畠江文代さん
写真を見る
表紙が見やすいように平積みされた文庫本。ライト文芸の本も潤沢にそろう
表紙が見やすいように平積みされた文庫本。ライト文芸の本も潤沢にそろう
写真を見る
個性的なポップ広告。来店客の読書欲をそそるフレーズだ
個性的なポップ広告。来店客の読書欲をそそるフレーズだ
写真を見る
個性的なポップ広告。本の面白さが伝わってくる
個性的なポップ広告。本の面白さが伝わってくる
写真を見る

 「列車で読む本を選ぶなら絶対、駅ナカ書店」と旅好きの知人に聞いたことがある。駅ナカとは駅改札内の店舗。車内読書に特化した品ぞろえなので、事前に「これ」と決めた本がなくても最適な一冊が見つかるというわけだ。新幹線で関西圏までなら約2時間半。道中が至福のひとときとなるかどうかは、ひとえに売り場担当の書店員のセンスにかかる。JR博多駅(福岡市博多区)の新幹線改札内にある「ブックスタジオ博多駅店」を訪ね、駅ナカの読書ソムリエたちに昨今の車内読書事情を聞いた。

■中身も見ずレジへ

 「続き物より単発物。重たい本格長編よりも、軽い短編集や複数作家によるアンソロジー(作品集)など、普段あまり本に触れていない人でも読みやすい本を置くように心がけている」。そう話すのは同店のサブマネジャー金子恵さん(36)。勤続15年のキャリアのすべてを駅の書店にささげてきた筋金入りの駅ナカ書店員だ。

 店頭に並ぶ本の選択はほとんど書店員に任されているという同店。金子さんが担当する文庫コーナーでの人気書籍は、ミステリー、時代劇、警察小説などだが、駅ナカ独特の傾向として短編集の人気も見逃せない。

 最近だと「短編工場」(集英社文庫)。伊坂幸太郎さんや宮部みゆきさんなど人気作家12人の短編を集めた一冊。5年前の本だが、「空港の書店で売れている」と聞き、年末年始の帰省シーズンに仕入れたところ1カ月で50冊近く売れるヒットに。駅ナカ書店員の嗅覚が生かされた好例だ。

 確かに短編コーナーは客がひっきりなし。名古屋に帰省するという大学4年の高橋翔さん(23)=同市南区=は「時間が限られた中では短編が1番。切りの良いところまで読んでスッキリ終われる」と中身も見ずに「短編工場」など2冊をつかみ、レジに向かった。

■店内滞在は約5分

 「(表紙の印象だけで選ぶ)ジャケ買いのお客さんも少なくない」。19年前の開店時から勤めるパート店員の畠江文代さん(53)によれば、出張客が多いせいか、7割以上が男性客。旅行カバンを手に慌ただしく来店する彼らの店内滞在はせいぜい5分。15分以上とどまる客は皆無という。

 「裏表紙のあらすじをチェックし、帯の宣伝文句を読み、中身をパラパラ見たら即お買い上げというパターンが多い」と畠江さん。じっくり腰を据えて探すのが一般書店なら、駅ナカの本選びはいわば“一目ぼれ”。そのため、店内には客の「直感」をサポートする工夫が随所に見られる。

 陳列は書名のインパクトが伝わるよう表紙を見せるのが原則。書棚を、平積みの文庫本が取り囲み、棚の中も表紙を表に向けた「面陳(めんちん)」が目立つ。低めの書棚の上には店員「イチ押し」の本がずらりと並ぶ。

■限られたスペース

 151平方メートルの店舗は一般書店よりかなり狭い。「限られたスペースで何を売るか、ピンポイントの対応が必要」と金子さん。客が何に関心を示し、視線がどこに止まったか。トレンドのヒントを見逃すまいと、店内を注視する目は鋭い。

 最近気になるのが「ライト文芸」人気。どちらかと言うと若者向けジャンルだが、「この1、2年、40~50代の中年男性が買うケースが目立つ」という。「小難しくなくスイスイと読める」(畠江さん)点が受けたのか。売れ線は三上延さんの「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズ(メディアワークス文庫)。美貌の古書店主が古書にまつわる謎を解いていく話だ。

 今どきの中高年世代は気が若いのか。車内が他人の目を気にせず「知の探究」に浸れる空間だとすれば、普段読まないライト文芸に手が出る気持ちも分かる。「駅ナカ書店員はおじさん世代を未知の『知』にいざなう案内人か」。そんなことを考えながら話を聞いていると、「目標は『ここならどの本を買っても外れがない』と言われるような書店であること」と話す2人がとても頼もしく見えてきた。

    ◇      ◇

■「イチ押し」ポップ広告、読書欲刺激

 「開いて3ページで面白いと確信。続けて7ページで目が離せなくなった。それから13ページで時間を忘れた」-。ブックスタジオ博多駅店の売り場に、まるで花が咲いたように立ち並ぶポップ広告。店員「イチ押し」の本の魅力を伝えるものだが、どんな本を売りたいのか、店の個性が最も表れる部分でもある。

 インパクトを重視する駅ナカ書店では、特に力が入る分野。「シリアスで、ドキドキするテーマに違いないのだが、この小説は笑っていいやつだ!」「妖怪と暮らすのも悪くないな…」。若手の書店員が知恵を絞ったフレーズは、お気に入りの一冊を探す来店客の読書欲を刺激する。もちろん文面デザインは手書きばかり。「温かみがあるし、実際に読んで紹介している感じがするから」という。

=2017/03/28付 西日本新聞朝刊=

西日本新聞のイチオシ [PR]

西日本新聞のイチオシ [PR]