「コピーではなくカバー」 探究心旺盛な福岡の親父バンド [福岡県]

ロックのカバーバンド地元11組が集結した「福岡クラシック・ロック・フェスティバル」。ホスト役はレッド・ツェッペリンのカバーバンド「GRAF ZEPPELIN Ⅱ」=9月初旬、福岡市・中洲
ロックのカバーバンド地元11組が集結した「福岡クラシック・ロック・フェスティバル」。ホスト役はレッド・ツェッペリンのカバーバンド「GRAF ZEPPELIN Ⅱ」=9月初旬、福岡市・中洲
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(上)エリック・クラプトンのナンバーを演奏する「E.C. Was Here」はイベントのため臨時結成したカバーバンド(下)ジミ・ヘンドリックスをカバーする「TRIO THE RAINBOW」は女性客の歓声も誘った
(上)エリック・クラプトンのナンバーを演奏する「E.C. Was Here」はイベントのため臨時結成したカバーバンド(下)ジミ・ヘンドリックスをカバーする「TRIO THE RAINBOW」は女性客の歓声も誘った
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(左)「GRAF ZEPPELIN Ⅱ」の田中健さん。素顔は地元の不動産会社で働くサラリーマンだが(右)ステージではロバート・プラントの歌唱法を探究するボーカリストに変わる
(左)「GRAF ZEPPELIN Ⅱ」の田中健さん。素顔は地元の不動産会社で働くサラリーマンだが(右)ステージではロバート・プラントの歌唱法を探究するボーカリストに変わる
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 洋楽ロックファンにはたまらないイベントに違いない。9月初旬、福岡市・中洲で2日間にわたり開かれた「福岡クラシック・ロック・フェスティバル」。レッド・ツェッペリンやディープ・パープル、エリック・クラプトン…。1970年前後に登場し「ロック黄金期」を築いたバンドやアーティストをカバーする地元バンドのジョイントライブだ。私もロックファンの一人で、世代的にも「どストライク」。胸を躍らせ、探った。

 2日夜、中洲のライブハウス「ゲイツ・セブン」。130のテーブル席がほぼ埋まる中、ステージには中高年を含む男性5人組が照明を浴びて現れた。おもむろに演奏を始めたのはクラプトンの「クリーム」時代の名演「クロスロード」。ギター2人はともにメタボ気味のオヤジ風だが、すぐに豹変する。疾走感のあるリズムに合わせ、ブルージーなフレーズの速弾きと枯れた歌声で堂々と演奏。観客が自然と体を揺らしだしたところにバラード「ワンダフル・トゥナイト」などを織り交ぜ、渋みのあるクラプトン節を次々に披露した。

 続くは「ちょい悪オヤジ」風の3人組。伝説のギタリスト、ジミ・ヘンドリックスのカバーバンドだ。うなるようなギターとすごみのある歌声、ドラムとベースのタメの効いたリズムで客席はすぐノリノリに。黄色い声を上げ、会場の片隅で踊りだす女性も現れた―。

 「ストレートなロックのカバーバンドは活動がとても地道。光を当てたい」。イベントはライブハウス側のこんな提案で2月に始まった。2回目の今回と併せ、あるバンド関係者がキーマンになった。ツェッペリンのカバーバンド「グラーフ・ツェッペリンⅡ」のボーカル、田中健さん(55)だ。企画の山場となるのは出演バンドの掘り起こし。田中さんは地元不動産会社で働く傍ら、活発な活動で幅広い人脈を持ち、一肌脱ぐことに。前回の出演は1日限りで5組だったのに対し、今回は初日の1日を含め倍以上の11組が集結した。

 今回の顔触れは他にエアロスミスやイーグルス、オールマン・ブラザーズ・バンド、ジェフ・ベック、ブルース・ブラザース…。田中さんが参加を呼び掛けたのは「1975年までにレコードデビューしたバンドやギタリストをカバーする腕利きバンド」。米国の音楽史に残る69年の大規模野外コンサート「ウッドストック・フェスティバル」をイメージし、企画を練ったらしい。かなりマニアックだが、何となく分かる気がする。

 そんな彼が、カバーバンドによるステージの見どころを熱くこう語る。「どのバンドも表面的なコピーではなく、ブルースやカントリーなど影響を受けた音楽にもアプローチする。解釈を深めて練習すれば、曲は自分たちのものになり、オリジナルと違っても本物っぽくなる。落語家が江戸時代の古典を探究するのと同じ。だから『コピー』ではなく『カバー』。ツェッペリンのようにバンドが解散したり、ジミヘンのようにアーティストが夭逝したりして生の演奏に触れることができなくなっても、僕らの演奏でよみがえる」

 田中さんの熱弁に耳を傾けるうち、国語の教科書に登場した文芸評論の巨匠、小林秀雄の「模倣と独創」論に通じてくる。模倣は先人を敬い、その才能に迫る作業。これを重ねて独創性を育み、豊かな芸術を生む。芸術に限らず、ビジネスにも通じる理論と言えるが、田中さんはポリポリ頭をかきながら「いえいえ。単なる大人の遊びです」と笑う。

 今回、田中さんのバンドはホスト役として初日にトップバッター、2日目はトリを務めた。トリのステージでは、ブルース色の強い「貴方を愛しつづけて」、斬新なギターリフが色あせない「胸いっぱいの愛を」、そして名曲「天国への階段」…。カバーするのはスタジオ録音のアルバム音源ではなく、即興演奏が随所に入るライブ音源だ。力強く安定感のあるドラムやベースのリズムに絡むのは、本家ジミー・ペイジに迫るほど甘く、メロディアスなギター。そこに茶髪のロン毛でロバート・プラントに扮(ふん)した田中さんが、広い音域で話すように歌う。よく見ると、ロン毛メンバーの一人は明らかに「ヅラ」だが、そこは気にすまい。私も40年来のツェッペリンファン。鳥肌が立ち、思わず泣けた。

 ゲイツ・セブンに聞くと、福岡には一番人気のビートルズを含め数百ものカバーバンドが活動しているらしい。大半は50代前後のオヤジ世代とか。モチベーションはロックと出合って以来抱く憧れと熱狂といい、それが彼らの若々しさを保っているようだ。それは聴く側も同じ。ロックのカバーバンドに当たる光。その効果は広く、熱く注目されそうだ。

=2018/09/21 西日本新聞=

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