音楽配信時代を生き抜くCDショップの"秘策" 福岡の商店街で70年、「唯一の存在」に [福岡県]

自社制作のCDを次々に企画している印藤泉さん
自社制作のCDを次々に企画している印藤泉さん
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 福岡における「おばあちゃんの原宿」とでも言おうか、多くのシニアが買い物を楽しむ福岡市・天神の新天町商店街。その一角に創業70年目を迎えたCDショップがある。音楽をインターネット経由で楽しむ人が増え、大手チェーンですら消えゆく激動の時代をどうやって生き抜いてきたのか。そこには、ある秘策があった―。

 終戦から3年後の1948年、人々のすさんだ心を音楽で満たそうと「ミュージックプラザ・インドウ」は誕生した。クラシックレコードの販売に始まり、2代目社長・印藤泉さん(68)の時代にはカセットテープ、CDへと置き換わってきた。

 音楽業界は荒波にもまれている。一般社団法人・日本レコード協会によると、CD生産額は98年の5879億円をピークに下がり始め、2017年にはその3割を切る1707億円まで落ち込んだ。ネット配信は総生産額の2割まで成長し、「CDが売れなくなった」と言われるようになって久しい。
 ところが、インドウの隠れた看板商品は今もCD。しかも自社制作だ。もちろん主力は大手レコード会社の商品だが、個人店がオリジナルアルバムを出し、ヒットを連発するのはかなり珍しい。その理由を印藤さんは「人の『所有欲』をくすぐる、手元に置きたくなるCDを作っているからでしょう」と語る。

 昨年好評だったのは、昭和の大スター石原裕次郎の名曲集。石原裕次郎記念館(北海道小樽市)が没後30年の節目で閉館することを聞きつけた印藤さんは、閉館日に狙いを定めて売り出した。デビュー曲の「狂った果実」(1956年)から「北の旅人」(87年)まで21曲を収録。他県のCDショップにも置いてもらい、1000枚売れればヒットと言われる中で3000枚近くを売り上げた。
 
 こうした名曲集でも、大手レコード会社が制作するものは「CDボックス」などと銘打って、ヒット曲を複数枚に分散させて収録することがよくある。だが、このような大量生産・大量販売は、インドウには難しい。そこで、客が本当に欲しい曲が詰まった「確実に売れる1枚」を狙うのだ。客と直に接し、ニーズを把握している小売店だからこそできる企画。他の小売店にも共同制作を呼び掛け、コスト負担を抑えつつ販売網を広げるなど、工夫を重ねてきた。

 博多っ子の心をガッチリつかんだアルバムもある。廃盤になったレコードの音源を掘り起こした村田英雄の「博多ばやし」や、福岡を代表する祭り・博多祇園山笠に欠かせない「祝い目出度(めでた)」など、地元の古謡や民謡を集めた2枚組CD「博多のよかうた よかここち」は、2008年に発売し今も売れ続けている。地元の漫画家・長谷川法世さんがジャケットのイラストを描き、CDケースを開くと絵巻物のようだ。「これだと持っておきたくなるでしょう?」と印藤さんは胸を張る。

 さらにオリジナルCDに欠かせないのが、付属のブックレットだ。歌詞だけでなく、曲にまつわるエピソードやデータ、時にはアーティストのメッセージも盛り込んだ解説本で、読んでも楽しめる。「手間もコストもかかるけど、このこだわりが『インドウのCDなら間違いない』というリピーターを増やしている」(印藤さん)

「待ち」の姿勢からの脱却を

 印藤さんが自社制作を始めたのは1977年。映画の名曲を集めたカセットテープが最初だった。日用品などを扱う通信販売カタログに掲載すると、全国から注文が舞い込んだ。音楽業界の先を見据え、「店に来る客だけをあてにした『待ち』の姿勢から脱却せないかん」という危機感からの挑戦だった。

 CDの時代に入ると「タワーレコード」や「TSUTAYA」などの大手が全国に販売網を広げていく。インドウも負けじと、昭和の流行歌や懐かしの洋楽、童謡などの名曲集を作った。印藤さんの胸にあったのは「古い音源を守らなければ」というもう一つの危機感。レコード会社の社員が世代交代し、忘れ去られていく歌を、次の世代につなぎたいという思いだった。
 「詞がしゃれとんしゃー(しゃれている)歌がたくさんある。行間に情景が見えるような、日本語の奥深さってのかな」
 そうして作り続けたオリジナルCDは、今や500種類を超える。

 インドウにはもう一つの顔がある。店の2階に100人ほどを収容できるイベントホールがあり、「インストアライブの聖地」なのだ。地元のバンドやアイドルが日夜ライブを行う。毎月開く新譜の試聴会「聴き歌の会」は、新人アーティストが歌うことも。前川清や加藤登紀子ら大御所の公演もあり、10代からシニアまでが集う。
 「客とアーティスト、インドウの三位一体。ここがあってよかったと言われる場所にしたかった」
 イベント情報を発信する公式ツイッターは5000人以上がフォローし、印藤さんの思いは確実に届いている。

 今では、レコード会社で経験を積んだ長男・毅さん(38)が右腕として店に立つ。客の心をつかみ、CD販売でもリアルな聖地としても「唯一の存在」であり続けようとする街のCDショップ。印藤さんは「業界の一端を担う小売店として、音楽文化を継承していく使命感を持ってやっていきます」と力強く語った。

=2018/10/17付 西日本新聞=

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