「そこに愛はあるんか!?」 ギターリペアマンに学んだ教訓 [福岡県]

修理を終えたエレキギターをアンプにつないで試奏し、仕上がりをチェックする尾仲宣彰さん=福岡市・天神
修理を終えたエレキギターをアンプにつないで試奏し、仕上がりをチェックする尾仲宣彰さん=福岡市・天神
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黙々とエレキギターの修理に取り組むリペアマンの尾仲さん。工房の受付カウンターは作業台も兼ねている=福岡市・天神
黙々とエレキギターの修理に取り組むリペアマンの尾仲さん。工房の受付カウンターは作業台も兼ねている=福岡市・天神
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尾仲さん常駐の工房に整然と並ぶ工具類(一部)=福岡市・天神
尾仲さん常駐の工房に整然と並ぶ工具類(一部)=福岡市・天神
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島村楽器福岡イムズ店の専属ギターリペアマン、尾仲宣彰さん
島村楽器福岡イムズ店の専属ギターリペアマン、尾仲宣彰さん
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 最近、すっかり世話になっている職人さんがいる。福岡市・天神の大手楽器店専属のギターリペアマン、尾仲宣彰さん(37)。ギターやベース、ウクレレなど弦楽器(バイオリン類は除く)の修理や改造、調整を請け負う職人さんだ。愛用のエレキギターを修理してもらったところ、修理に限らず学ぶことが多く、「恩人」とさえ感じている。

 商業施設のワンフロアに広がる店舗の片隅に、わずか10平方メートル程度の工房がある。壁や棚にペンチやスケール、ドライバー、はんだごて、固定器具、電動ドリル…などの工具類が整然と並び、奥には修理待ちのギターやベースがずらり。カウンターは作業台兼用。尾仲さんは週5日、青いエプロン姿でこの工房に常駐している。

 尾仲さんは福岡県中間市出身。中学時代から好きなギターを仕事に生かそうと、高卒後にアルバイトを経て大手楽器店の県内店舗に就職した。店長まで務めたが「ギターを知り尽くし、長く付き合う楽しさを多くの人に伝えたい」とリペアマンへの転身を決意。楽器店系列の専門学校(東京)で2年間学び、2015年から天神の店舗に常駐する。九州7県の系列18店のうちリペアマン常駐はこの店のみで、幅広い地域を一人でカバーする。

 彼に修理を頼んだギターは、20年前と10年近く前に入手したエレキ2本。1本はネックの糸巻き側で弦を支えるナットが低く、弦をつま弾くと振動がフレットに触れるビビリが生じ、音が割れたり詰まったり。もう1本は電気系統が故障。アンプにつなげば音量などを調節する本体側コントロールノブに触れるだけでガリ(ノイズ)が鳴り、ビリビリッとまさかの感電も。ともに彼の細かい診断で不具合の原因が分かった。

 ビビリにガリにビリビリ…。濁音だらけの症状からかなりの重症だと思っていたら、診断結果は意外にも軽症だった。修理は問題箇所の部品交換や配線修正など最低限の処置で済んだ。工房では見るも無残な重症例を目にすることも。ネックが折れたり、指板に亀裂が入ったり、アコースティックギターの本体トップ(表板)がぱっくり割れたり―。

 「燃えて灰になればお手上げだけど、どんなに重篤な不具合でも必ず直せる」と尾仲さん。そしてこう説明する。「ケースに収めっ放しが一番のNG。劣化を進め、故障の原因になる。かと言ってケースから出してスタンドに立てたまま放置するのもNG。ギターは生き物。温度、湿度、錆び、手脂汚れ、ラッカー塗装を溶かすゴム接触…。常に目配せし、愛を込めて接しないといけません」

「一生付き合える相棒」

 彼の言葉は一つ一つドキリとなる。実は、不具合はどちらも早い時期から気になっていた。たまに弦を張り替え、磨き、アンプラグドでかき鳴らすことはあっても、プラグインには至らず、ケースに収めたまま保管。長年放置していたわけだ。これじゃ愛用ではなく愛蔵。いや、愛が薄れたら単なる所有に過ぎない―。こんな自問を続けるうち、女優の大地真央さんがふと脳裏に現れ、「そこに愛はあるんか!?」。消費者金融のCMでの決め台詞で問い掛けられているような気がした。

 「そう深刻に考える必要はありません。正しい手入れさえすれば、一生付き合える相棒ですから」と励ましてくれる尾仲さん。彼によると、学生時代に趣味でギターを始め、社会人になっても続ける人はほんの1、2割。続かなくなる主な理由の一つは「故障」らしい。ただ、それでも手放さず、プロの修理を経て、20〜30年ぶりに趣味が再開する人も少なくないとか。尾仲さんに修理を頼んだ客層の中心は50代。「管理職になる世代。学生時代の趣味を生かし、働き方改革の範を示しているのかもしれません」

 私とギターとの出合いは30年以上前の学生時代。お気に入りの音楽をコピーするため夜更かしを続けた日々が懐かしい。しかし社会人になれば仕事に追われ続け、いつしかそんな生活がしんどい年齢にもなった。そんな中、最近になって親父バンドの取材が続き、触発されてギター熱が復活。その復活劇を尾仲さんが後押ししてくれたわけだ。

 ギターはいい。楽器はいい。騒音に気配りして奏でれば、音楽はより身近になり、暮らしに潤いが増す。ただ、ここで新たな問題が一つ。自宅の自室には学生時代から愛用する1本に加え、修理で生き返った2本も並び、私が手を伸ばすのを待つ。これは強烈な誘惑である。学生気分で夜更かしを続けるわけにはいかない現役世代。尾仲さんに感謝し、妄想での真央さんの問い掛けにも頷きつつ、気持ちを制御して相棒たちとの“対話”に臨んでいる。(木村貴之)

=2019/03/18 西日本新聞=

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