食 3代目として、母として 玄界灘祝い唄(8)

玄界灘で捕れたタイの開きを手にする上田江美子さん
玄界灘で捕れたタイの開きを手にする上田江美子さん
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 社長だった父、創業者の祖父が相次いで亡くなって2年余り。海産物の卸業者としては、今も「修業中」の身だ。それでもなじみの客は親しみを込めてこう呼ぶ。

 「3代目、今日は何がお薦め?」

 「ノドグロ? だめだめ、時季がずれとるとけん、脂がいまいちばい。旬で安い玄界灘のサワラが絶対いいよ」

 福岡市博多区対馬小路の海産物卸問屋「博多三徳」3代目、上田江美子さん(32)。東京日本橋のデパートが開く催事会場にも定期的に呼ばれ、歯切れのいい博多弁で玄界灘産の魚のおいしさを説く。

 博多三徳は1959年創業。ルーツは祖父が始めた、玄界灘で捕れた海産物をリヤカーで売り歩く行商の卸問屋だった。アジの開き、サワラの切り身、イワシのみりん干し。玄界灘産を中心に新鮮な魚を加工して消費者に届ける。ただ、自身が子どもの頃はアジとイワシの区別がつかないほど家業には無関心だった。

 語学留学先のニュージーランドで知り合った男性と結婚。21歳のときに実家から遠く離れた東北で長男を出産し、離乳食を作るころになって焦った。

 だしって、どうやって取るんだっけ-。

   ◇   ◇

 博多三徳では定期的に「おだし教室」を開いている。若い主婦などに昆布やいりこを使っただしの取り方や素材の鮮度の見分け方などを教えているのは、2児の母親になった上田さんだ。

 離婚し、シングルマザーとなって帰郷。家業を手伝い、母親から手料理を教わって気付いた。「素材が良ければ、だしってこんなに手間がかからないんだ」。そのことを同じように子育てに悩む母親に知ってほしい。

 3年前から自社の店舗を開放し、玄界灘の魚の加工品や無農薬栽培の農産物などを並べる「博多マルシェ」も開く。昨年暮れのマルシェでは、ブリの解体ショーも実演した。「私でもできそうと思ってもらえる下手くそぶりが好評だったんよ」と笑う。魚の調理が苦手な母親たちの意識が変わってくれれば本望だ。会社のホームページでは魚などを使った和食中心の自宅の朝食も公開している。

 帰郷してもうひとつ気付いたことがある。「やっぱり博多の人は口が肥えとるねえ」。それは豊富な魚が捕れる玄界灘に囲まれているから。その豊かさをもっと伝えたい。食卓を彩る海産物問屋の3代目として。そして、2人の子の母親として。

 取材中、記者が子育て中だと知ると目を輝かせた。

 「このタイの開きを見て。玄界灘産、身が白くてきれいでしょう。今度、奥さんと一緒に買いにこんねっ」

 =おわり

 第1回「願 漁師の誇り 文化つなぐ」

=2017/01/10付 西日本新聞朝刊=

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