【産業医が診る働き方改革】<12>力を引き出す処方箋

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 ある企業で、健康管理室に書類を届けに来た北島亜弓さん(24)=仮名=にふと目が留まり、右側の手足にまひがあることに気付きました。産業医は健康診断で異常があったり、病気を治療していたりする従業員とは面談などで接する機会がありますが、北島さんと会うのは初めてでした。まひは幼少期に受けた手術の影響で、治療は終了しており、毎年の健康診断でも異常はなかったようです。

 ただ、話を聞くと、ひどい肩こりや手のしびれ、腰痛などに悩んでいました。職場は電話応対が多く、受話器を顔と肩で固定したまま、自由に動く左手を使ってメモを取るという作業を1日に何十回もしています。北島さんにとってはそれが日常で、誰かに相談するなんて考えもしなかったそうです。

 私は会社に働き掛け、PHSとヘッドマイクセットを使えるようにしました。電話のたびに不自然な姿勢を取る必要がなくなり、支障なく業務に打ち込めるようになるでしょう。

 北島さんのように、治療や診断を受けていなくても、病気や体調不良など健康問題を抱えて働いている人は多くいます。ある報告では、日本人労働者の約8割に目のかすみや耳鳴り、腹痛など何らかの自覚症状があるとされています。体調不良による生産性低下を金額に換算すると、休業よりもマイナスが大きいとする報告もあります。

 従業員に期待通りの能力を発揮してもらうことは、会社にとっても重要な課題になっています。これまで、弱視の設計業務従事者のノートパソコンをデスクトップ型に変える▽体に障害があるため、混雑した電車での通勤が苦痛だという社員の出勤時間をずらす-などの対応をしたことがあります。

 従業員の困り事は、診断名や検査値だけでは分からないし、病気の治療だけでは十分に改善できません。働く力を引き出すため、産業医が職場を巡回したり、従業員全員と面談したりすることで、困っている内容と環境をしっかり把握し、労働時間や作業内容、作業環境などを調整する処方箋が重要になっているのです。

(藤野善久=産業医大教授)

=2018/04/30付 西日本新聞朝刊=

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