【産業医が診る働き方改革】<20>歯科医院でじん肺に

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 坂田真奈美さん(27)=仮名=は3年前から歯科技工士として歯科医院で働いています。主な仕事は入れ歯を削って加工すること。削る際、細かな粉じんが舞うのが気になり、同僚と市販の紙マスクを着けて作業していました。粉じんを吸引する簡単な排気装置もありましたが、装置に入れ歯の粉じんが残り、十分に排気できているのかよく分からない状況でした。

 最近になって、散歩したり、少し重い物を持ち上げたりした時、軽い息切れを感じるようになりました。運動不足かもしれないと思っていたのですが、徐々に息切れがひどくなったので、思い切って受診しました。

 検査の結果、じん肺と診断されました。一般的にじん肺は作業開始から10年以上で発症しますが、坂田さんは3年という短期間に発症してしまいました。

 その後の調査で、入れ歯の加工材料には「結晶質シリカ」「インジウム」「コバルト」などの肺障害を引き起こす物質が含まれていたことが判明。これらは深刻な肺障害の原因となるので、通常の粉じんに比べ、100分の1~1万分の1のごくごく低濃度で厳しく管理されなければなりません。

 つまり、この歯科医院で入れ歯加工時に使用している排気装置や紙マスクでは、対策が不十分でした。使っていた物質の濃度も肺に障害を及ぼすほど高く、短期間でじん肺を発症してもおかしくなかったのです。

 歯科医院は産業医の指導で、高性能の排気装置を設置した上で、歯科技工士には高性能の粉じんマスクを着用させ、定期的な健康診断も義務づけました。坂田さんは事務担当に替わりました。

 坂田さんのように、粉じんを吸うことでじん肺や肺がんになるような作業は今もかなりあります。近年、さまざまな素材が開発され、多様な用途に使われるようになりました。新しい物質の中には、人体に障害を及ぼすリスクが大きい物質もあります。働く人の健康を守れるのか、どのような対策が必要なのか。特に、新しい化学物質を使う際は、産業医との安全性の検討が必須です。

 (森本泰夫=産業医大教授)

=2018/07/30付 西日本新聞朝刊=

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