【産業医が診る働き方改革】<27>「過剰適応」を見直そう

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 「うつ病」という言葉を知らない人はいないでしょうが、定義を正しく理解している人は少ないようです。うつ病は疲労感や絶望感、自殺願望、食欲や性欲の低下、頭痛など、心身ともに症状が現れます。

 古川篤志さん(48)=仮名=は中学教諭。担任以外に野球部顧問も務めています。週末も練習試合で家族とゆっくり過ごす時間はありませんでした。4カ月前から集中力がなくなり、いらいらすることが増えました。いつもより早い朝5時に目が覚めてしまい、食欲もなくなりました。眠れないので寝酒をし、いつも胃が重たく、下痢もします。授業準備には今まで以上の労力を要し、体重は5キロも減りました。

 本人も家族も心配して、人間ドックで精密検査を受けましたが、異常はありません。それでも症状は全く改善しません。特に朝は症状が重く、ついに2週間前から学校に行けなくなりました。本人をよく知る校長が「うつ病ではないか」と心配し、精神科受診を勧めました。

 古川さんは典型的なうつ病でした。彼のように、責任感が強く、きちょうめんで繊細で神経質なタイプは周りからの依頼を断ることができません。上司や同僚の信頼は厚く、生徒や保護者にも慕われており、無理してでも周囲や自らが描く「理想」通りに振る舞おうとします。

 これを精神医学では「過剰適応」と呼びます。社会に適応して生きることは好ましいことです。しかし、過剰適応は長くは続かず、古川さんのように破綻してうつ病を発症してしまうこともあります。

 「無理して顧客や周囲に合わせる」「全ての人に満足してもらいたい」…。過剰適応する会社や職場では、働く人たちにも過剰適応を要求しがちです。働き方改革では、長時間労働だけに焦点を当てるのではなく、過剰適応をやめるという視点も必要ではないでしょうか。

 時には周囲の期待を裏切ることも必要でしょう。がむしゃらに全速力で走り続けるのではなく、適度な休憩を取りながら、人生という長い道のりを個々のスピードで走りたいものです。

 (吉村玲児=産業医大教授)

=2018/10/22付 西日本新聞朝刊=

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