【産業医が診る働き方改革】<29>見えにくくても復職

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 「目が見えないと本当に困ります」。食品メーカーの工場で働く中島慎二さん(50)=仮名=が訪ねてきました。40歳のとき、健康診断で糖尿病が見つかりましたが、内科で治療を受けることなく放置してしまったそうです。

 2年前、急に左目が見えなくなり、眼科で重症の糖尿病網膜症だと判明しました。その後、両目とも徐々に視力が低下。現在、左はほとんど見えず、右も眼鏡を掛けても書類の細かい字が見えないため、休職中でした。産業医との面談で「白くかすんで見づらい」「段差が分かりにくく、つまずきやすくなった」などと打ち明け、私がいる「ロービジョン外来」の受診を勧められたそうです。

 ロービジョンとは矯正しても視力0・3以下、視野障害などがある人を指します。大学病院などの眼科に、日常生活や職場でのアドバイスをする専門外来が設けられています。

 中島さんは、まぶしさを軽減する遮光眼鏡や事務作業用の老眼鏡を処方され、視覚障害者手帳の取得を勧められました。「整理整頓された環境での復職が望ましい」「パソコンソフトや拡大鏡などの道具を使えば事務作業もできる」といった助言も受けました。

 復職に向け、眼科で紹介された専門の訓練施設で白杖歩行を訓練、拡大読書器やパソコンの拡大ソフトなどの使い方も学びました。前向きになった中島さんに「復職OK」の判断が出ました。職場では工場への単独立ち入りや危険作業を控える措置が取られ、無事復帰したと聞いています。

 このケースは環境整備によって働き続けることができた好例ですが、復職に際しては勤務中の移動で支障が出ることも少なくありません。特に、通勤手段の確保や職場内での移動に関する支援は課題の一つです。

 国内の失明者20万人に対し、ロービジョンの人は正確な統計はないものの、150万人ともいわれ、支援の必要性が高まっています。職場復帰には本人の努力も大切ですが、産業医や眼科医、訓練施設の方々との連携がとても重要です。

 (近藤寛之=産業医大教授)

=2018/11/19付 西日本新聞朝刊=

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