【産業医が診る働き方改革】<30>「労働寿命」を延ばそう

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 前田一政さん(61)=仮名=は定年退職後の継続雇用が決まりました。業務はこれまで通り、慣れた溶接作業が中心です。ただ、半年前に職場で転倒し、大けがをしかねない経験があり、不安も大きかったようです。

 報告を受けた産業医が現場を確認しましたが、転ぶような環境ではありません。産業医はさまざまな専門家と情報交換し、働く人の健康と安全を確保します。前田さんの件では、体力医学や健康教育が専門の私に意見を求めてきました。

 実は、転倒は10年以上連続で、労働災害による死傷者の原因第1位を占めています。特に、50歳以上はリスクが高くなる傾向にあります。まずは床の段差やコードの放置をなくすなどして、転倒しにくい環境を整備することが大事です。

 一方で、年を取って体力が低下すると、わずかな床のでこぼこでも転んでしまうことがあります。前田さんの体力を測定してみると、筋力やバランス能力が極端に低下し、両目を閉じての片足立ちが5秒も続けられません。歩く動作は片足立ちの連続なので、常に不安定な状況にあったと思われます。

 内閣府の調査では、現在仕事をしている60歳以上の約4割が「働けるうちはいつまでも働きたい」と回答。就業者に占める高齢者の割合も増えています。今後は職場にも、そして働く人にも、健康寿命だけでなく「労働寿命」の延伸が求められる時代が来るかもしれません。

 運動などの身体活動の継続で、さまざまな疾病の予防効果が期待できます。半面、いくら病気がなくても、体力が低下して求められる作業ができなくなれば、働き続けることは困難になってしまいます。高齢になっても働きたいと思う人が生き生きと働き続けるためには、体力の維持、増進が欠かせません。

 前田さんには、筋力強化運動やバランス運動などで構成した「転倒予防体操」を伝授しました。この体操を続けた結果、職場で転びそうになることが減った上、体力にも自信がついたと話していました。今は生きがいを感じながら働き続けているそうです。

(江口泰正=産業医大准教授)

=2018/11/26付 西日本新聞朝刊=

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