怖い…でもユーモラス 異形の「神」彩る鹿児島、3件無形遺産登録へ 神聖さと観光の兼ね合いが課題 [鹿児島県]

鹿児島県歴史資料センター黎明館に展示されている仮面行事。左下が「メンドン」。その右隣の2体が「ボゼ」。その右(下段)が「トシドン」
鹿児島県歴史資料センター黎明館に展示されている仮面行事。左下が「メンドン」。その右隣の2体が「ボゼ」。その右(下段)が「トシドン」
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突然現れた「ボゼ」に驚く子どもと楽しむ親たち=3日、鹿児島市
突然現れた「ボゼ」に驚く子どもと楽しむ親たち=3日、鹿児島市
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突然現れた「ボゼ」に驚く子どもと楽しむ親たち=3日、鹿児島市
突然現れた「ボゼ」に驚く子どもと楽しむ親たち=3日、鹿児島市
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南さつま市で行われる「ヨッカブイ」。シュロの皮でつくった仮面を被っている(同市教委提供)
南さつま市で行われる「ヨッカブイ」。シュロの皮でつくった仮面を被っている(同市教委提供)
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 おどろおどろしい見た目ながらも、年に1度地域を訪れて住民たちの幸せを願う「神」-。8県10件で構成される伝統行事「来訪神 仮面・仮装の神々」が早ければ今月下旬にも、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録される見通しだ。全国的な知名度では「ナマハゲ」(秋田県)に劣るものの、鹿児島県は「ボゼ」「メンドン」「トシドン(2009年に単独登録)」の3件を抱える「来訪神王国」。神出鬼没で多彩な異形の神々が、南国の離島を彩っている。

突如現れる「ボゼ」に子ども号泣

 「ボゼがくっどー」

 3日、同県十島村の村民文化祭が、村役場がある鹿児島市で開かれた。村の有人7島の一つ、悪石島でボゼを伝承する保存会会長の有川和則さん(66)が壇上で叫ぶと、突如現れたボゼ2体が観客の間を駆け回った。島外への来訪は3年ぶりで、貴重な機会だ。

 体の半分ぐらいある頭は茶色く、目と口は真っ赤。緑鮮やかなビロウの葉で身を包み、無言だが「ドドドッ」と床を踏み鳴らして人々にぬっと近づく。小さな子どもを号泣させ、大人たちを破顔させると、5分ほどで帰っていった。

 ボゼの起源や由来は不明だが、悪石島では毎年旧暦7月16日の盆踊りの最中に現れる。十島村は、12の島々が南北約160キロに連なる「日本一長い村」。ボゼが今も形として残るのは悪石島だけだが、かつては他の島々でも「悪さをするとボゼが来る」といわれていた。

南方系の文化に源流

 薩摩硫黄島(同県三島村)のメンドンは、旧暦の8月1、2日に現れて土地や人々の邪気を払う。甑島(同県薩摩川内市)のトシドンは、大みそかの夜に家々を訪問する祝福の神とされる。南九州の民俗文化に詳しい元鹿児島大教授の下野敏見さん(89)は「インドネシアなどの南方系の文化に源流がある。日本列島の南端にある鹿児島の離島だからこそ、昔ながらのやり方と姿が誠実に守られている」とみる。

 無形文化遺産候補には含まれていないが、シュロの皮で頭を覆った「ヨッカブイ」(同県南さつま市)というカッパの仮面神もいる。離島の神々に劣らぬ異形ぶりだ。

「神様だから俗化してはならない」

 鹿児島同様、来訪神が豊かな沖縄。無形文化遺産に推薦されているのは宮古島の「パーントゥ」1件だけだが、石垣島には「アカマタ・クロマタ」や「マユンガナシ」が伝わる。ただ、石垣市教育委員会によるといずれも観光資源化に危機感があり、アカマタは写真撮影も禁止。広報紙やホームページでの事前告知や事後掲載もないといい、謎に包まれている。

 下野さんは「神様だから、俗化してはならない。島おこしとの兼ね合いは難しいが、簡単に見ることができると、単なるお面にすぎなくなる」と語る。鹿児島の来訪神もあくまで地域の祭りで、積極的にPRはしてこなかった。

 そんな中、島外不出だったボゼは、少しずつ柔軟になっている。保存会によると人口70人ほどの悪石島では20~40代が少なく、担い手不足は深刻。村民文化祭でも島外出身の男性2人が仮面神を担った。有川さんは「ボゼを絶やさぬためには人が必要。悪石島の神が注目されることで、島へのUターンや移住につながれば」と無形文化遺産登録に期待する。

 盆踊りの時季は島にある4軒の民宿も休業するため、観光客の受け入れ態勢など課題もある。それでも、有川さんは「やっぱりボゼは島で見てほしい。迫力が違うよ」と誇らしげに語った。

=2018/11/17付 西日本新聞夕刊=

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