「つなぎ美術館」の挑戦10年、ヒット次々 「郵便局」「裸島」…住民参加アート、町元気に [熊本県]

展覧会「ぼくのおくさん☆プロジェクト」の会場では、実行委員たちが撮った写真も常時スクリーンに映されている
展覧会「ぼくのおくさん☆プロジェクト」の会場では、実行委員たちが撮った写真も常時スクリーンに映されている
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展覧会に向け、現代美術家の柴川敏之さん(手前)らと協議する実行委員会のメンバーたち
展覧会に向け、現代美術家の柴川敏之さん(手前)らと協議する実行委員会のメンバーたち
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学芸員の楠本智郎さん
学芸員の楠本智郎さん
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 人口約4600人の小さな町の美術館が、大きな足跡を刻んでいる。県南部の津奈木町にある町立つなぎ美術館。地域ぐるみの「住民参加型アートプロジェクト」の始動から10年。多様なアーティストを招き、町民のアイデアも採り入れた各企画は注目を集め、「つなぎ」の名を全国に広めてきた。過疎の町で始まった取り組みは、着実に地域に根づいてきている。

■町民の実行委

 「実行委員がアイデアを出したり労力を提供したりして、作家のお手伝いをする。その積み重ねで展覧会が出来上がる」。10日、美術館で開催中の展覧会「ぼくのおくさん☆プロジェクト」の会場を案内する学芸員、楠本智郎さん(52)の声に力がこもった。

 2008年に楠本さんが提案して始まった住民参加型の取り組みでは、町民の実行委員会が重要な役割を果たす。作家と話して発想にヒントを与え、時には展示内容にも関わる。「創作活動をどう進めるかも実行委次第という局面があるから面白い」と楠本さんは言う。

 10周年の今年は「2千年後から見た現代社会」をテーマに、身の回りの物を化石に見立てた作品で知られる現代美術家の柴川敏之さん(52)=岡山市=を招致。町内に住まいや職場がある6人から成る実行委員会を4月に立ち上げ、委員たちは月1回のペースで柴川さんと顔を合わせ、意見を出し合ってきた。

 9月に始まった今回の展覧会場では、委員たちが未来に残したい町の風景や場所を映像で流している。柴川さんの作品を委員たちが「これぞ」と思う場所に置いて撮影した写真の数々を、作家本人が編集した。

■外に開く「窓」

 「緑と彫刻のあるまちづくり」を掲げる町に01年にオープンしたつなぎ美術館。当初、町民の利用は多くなかった。公募で学芸員になった楠本さんは「町民が来たいと思う美術館を、町民と一緒に考えたい」と取り組んだ。

 中でも手応えを感じたのは、海上に立つ学校として知られ、10年に閉校した旧赤崎小を舞台にしたアートプロジェクト。水曜日の出来事を書いて学校宛てに送ってもらった手紙を別の送り主に転送する「赤崎水曜日郵便局」や、現代アーティスト西野達さんによる「ホテル裸島」が評判を呼び、町も注目された。

 楠本さんは「美術館は町にとって外に開かれた小さな窓。町民が関わることで町の良さに気付き、外の人と接して活性化の原動力になる」との思いを強くしている。

■理解生む土壌

 当初から実行委員を務めている町婦人会長の石田ミサ子さん(73)は「そんなことができるのかと、最初は構えていた」と語る。ところが、住民がマイナスだと思っていたことを、作家が「面白い」と興味を示すことを知り、「やればできる」と自信につながったという。作家との意見交換も回を重ねるごとに白熱し、住民同士の輪も広がった。「今度はどんな人が、何を始めるのかと、楽しみでしかたがない」

 町によると、年間の一般会計予算約30億円のうち、美術館の運営や企画などにかかる経費は約3500万円。西野さんを招致した16、17年度は膨らんだが「町の重要な観光、文化事業として必要な経費」(財政担当者)と捉えた。13年度に「地域創造大賞」を受賞したことも町民の理解につながっているという。

 企画に合わせて、担当外の役場職員が自ら図面を引いて設計を手伝うなど、町ぐるみの事業にも発展しつつある。楠本さんは「新しい発想を受け入れる土壌があるのも津奈木町の魅力です」と自慢げに語った。

=2018/11/23付 西日本新聞朝刊=

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