「防災ゲーム」で備えを 阪神大震災体験を教材に 避難時のジレンマ問う [熊本県]

グループ内で、選んだ「YES」「NO」の答えについて議論する参加者たち
グループ内で、選んだ「YES」「NO」の答えについて議論する参加者たち
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「クロスロード」ゲームで、設問の意図などを解説する進行役の学生(右から2人目)
「クロスロード」ゲームで、設問の意図などを解説する進行役の学生(右から2人目)
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設問に対する答えの理由を発表する高校生(中央)
設問に対する答えの理由を発表する高校生(中央)
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 地震、豪雨、台風…。各地を容赦なく襲う自然災害に対し、日頃からの備えの重要さを分かってはいても、具体的な行動となると怠りがちだ。そんな中、目にした1枚のチラシ。「『クロスロード』というリスク・コミュニケーション・ゲームを通して、防災・減災について理解を深め、将来の災害に備えるためのリスク・マネジメントをみんなで学びましょう」-。聞き慣れないカタカナ用語に緊張しつつ、昨年12月、ある講座に参加した。

 ■自分の問題として

 県立大地域連携・研究推進センターが水俣市で開いた「防災・減災ではじめるまちづくり講座」。学生による自主研究グループ「県大防災プロジェクトユニット」の指導で、クロスロードの体験会が催された。

 「分かれ道」や「岐路」を意味するクロスロードは、1995年の阪神大震災を体験した神戸市職員への聞き取りから生まれたカードゲーム形式の防災教材。2003年に京都大や慶応大の教授ら3人によって考案されたという。「災害を自分の身に引き寄せて考えると同時に、他者のさまざまな考えを知ることができる」として、内閣府も推奨している。

 ■正解ない“クイズ”

 ゲームは至ってシンプルだ。5人一組で席に着き、それぞれが設問について「イエス」か「ノー」のいずれかのカードを選び、一斉に開示。多数派の3人に「青座布団」、1人だけの少数派に「金座布団」が与えられ、各人は回答の理由を説明し合う。

 「阪神大震災で実際に起きたジレンマが設問になっている。地震の教訓を伝え、話し合うために作られたゲーム」と進行役の学生。個人の価値観も反映されやすいという。

 最初の設問は「3千人いる避難所で2千人分の物資を確保した。配るかどうか」。私のいたグループは全員が「イエス」で座布団の獲得者はゼロ。「子どもや高齢者を優先に配る」「3日もすれば届くから」などが理由だった。別のグループでは「不公平からトラブルが起きる」として「ノー」を選んだ人もいた。

 続いては「避難所の小学校に飼い犬を連れて行くかどうか」。グループで1人だけ「ノー」を選んだ学生が金座布団を得た。

 進行役によると、実際には蛇やイグアナなど爬虫(はちゅう)類を避難所に連れてきたケースもあり、「いろいろな場面を想定できるようにあえてあいまいな設問にすることもある」という。答えを探すのではなく、あくまで参加者同士の議論を深めるのが狙いのようだ。

 ■教訓も伝える場に

 講座に参加したのは、県立大生を除けば、高校生や公務員など十数人。「あなたは県外から進学した大学生。不眠不休で倒れそう。故郷に帰りますか」との問いに対して、実際に熊本地震で似たような状況に追い込まれた県立大生が「どちらが正しいとは言えない。自分の体調や状況に応じて、周りに流されず判断してほしい」と話す場面もあった。ゲームを通し、災害時の経験や教訓をより多くの人に伝える役割もある。

 最後に、こんな設問もあった。「3日分の水と食料を入れた非常持ち出し袋を持って、家族と避難所へ。一方、避難所には水も食料もない世帯が多数。あなたは袋を開けますか」。会場からは「心理的に開けづらい」との声も。私も「ノー」を選択した。

 ただ、他の問題と違ってこのジレンマには解決策があるという。一斉に考え込む参加者を横目に、進行役の学生は語気を強めた。

 「袋を持っている世帯が多数派で、みんなに水も食料もあったら、誰も悩まなくていい。持っているのが当たり前な備えを目指しましょう」

 学生を指導している同大総合管理学部の上拂(うえはらい)耕生教授(行政法)は「まず他人が自分とは違うことを認識することが大切。その上で意見を表明し合い、誰もが納得できるアイデアにしながら、防災や街づくりについても考えていってほしい」と総括した。

 ゲームの仕方 「クロスロード」には主に二つのゲーム方式があるという。一つは、単純に選んだ理由を意見し合って、他者の考えを共有すること。この場合、どんな意見に対しても否定することなく、話し合いを進めることが大切。二つ目は、「イエス」か「ノー」のどちらが多くなるかを予測して、座布団の枚数を競う手法。慣れてくれば、1人だけの少数派を狙って「金座布団」を獲得するやり方もある。

=2019/01/17付 西日本新聞朝刊=

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