火山学者はあの時 熊本地震3年(下)千年の物差しで備える [熊本県]

大倉敬宏教授は自ら撮影した阿蘇中岳火口の写真を示しながら、1000年に一度の地震や噴火への備えや防災教育を求める
大倉敬宏教授は自ら撮影した阿蘇中岳火口の写真を示しながら、1000年に一度の地震や噴火への備えや防災教育を求める
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防災公園への整備が進む高野台の上に立つ京都大火山研究センター(中央)=本社ヘリから
防災公園への整備が進む高野台の上に立つ京都大火山研究センター(中央)=本社ヘリから
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 阿蘇カルデラ(陥没地形)内から外へ逃げようとする避難の車列。地震で道路は崩れ、のろのろとしか進めない。黒い降灰で周囲は薄暗く、車のテールランプだけが赤く連なって見える。灰でスリップした車が路肩にはみ出して止まった。あちこちで上がるクラクション-。

 「あまり考えたくない現実ですが」と前置きし、京都大火山研究センター(南阿蘇村)の大倉敬宏教授(55)が語ったのは、熊本地震直後に阿蘇中岳で大規模なマグマ噴火があったと想定した、住民大移動。本震があった朝、中岳から上る黒煙を見た大倉が心配したのは、まさにこうした「もう一つの危機」だった。

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 大倉は小中学生時代、宇宙に憧れ、新聞配達のアルバイトをして天体望遠鏡を買った。京大理学部に在学中、伊豆大島噴火(1986年)などがあり、火山物理学、地震学を専攻。2000年に着任し、阿蘇火山の観測を続けている。

 阿蘇カルデラは27万~9万年前、4度の巨大噴火と、マグマの大噴出に伴う大陥没で形成された。この数万年周期の巨大噴火は、北海道の古代地層からも降灰が観測されるほどだ。

 大倉が着目するのは阿蘇景観として知られる杵島岳や米塚。いずれも円錐形の山で、地層調査などから、杵島岳は4千年前、米塚は3300年前、ストロンボリ式マグマ噴火で形成されたと推定される。

 これまでの研究では、この規模の阿蘇大噴火と布田川断層の大地震は、ほぼ同じ約2500年周期で発生しており「熊本地震が阿蘇山の大噴火を誘発してもおかしくない」という危機感につながっていた。

 火山研では戦前の1937年から数年に一度、直下にマグマがあるとされる草千里で定点測量を続けている。当初の標高は今より10センチ高く、徐々に低下していたが、13年から上昇に転じた。収縮していたマグマが、膨張に転じていることを意味する。

 数千年に一度の地殻変動が熊本地震だとすれば、阿蘇山の大規模噴火リスクも高まっている。その仮説に立てば、大倉の心配は必ずしも「過剰反応」ともいえないのだ。

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 巨大地震や大規模火山噴火に対する観測、防災態勢は近年、少しずつ変わり始めている。

 その背景には、東日本大震災(11年)の教訓や南海トラフ地震への危機感があり、原子力発電所への火山噴火リスクといった視点も加わっている。

 阿蘇山を抱える熊本県でも昨年11月、噴火警戒レベル4(避難準備)以上の大規模噴火を想定し、住民の広域避難計画を策定。複数自治体、隣県にもまたがる住民大移動を想定した初の取り組みだが、大倉にすればその構えや備えはまだ脆弱(ぜいじゃく)に映る。

 地震後、火山研は全面建て替えや移転も検討されたが、同じ場所での補修再建が決まり、20年度の完成に向け、近く工事が始まる。開設から100年の節目に向け、新たな一歩を踏み出そうとしている。

 「千年の物差しで、地震や噴火の歩みを捉え直すと、連動噴火を含め、それは遠いようで、実は目の前にある危機なのかもしれない。だから私たちは観測を続けているんですよ。『正当に怖がる』ためにも」

 熊本地震から3年。大倉は自身に言い聞かせるように話した。 (敬称略)

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【ワードBOX】噴火警戒レベル

 気象庁が発表する火山活動状況を示す指標。レベル1(活火山であることに留意)▽2(火口周辺規制)▽3(入山規制)▽4(避難準備)▽5(避難)-と警戒度が高まる。御嶽山噴火災害(2014年)を機に15年に改正された活火山対策特別措置法では、レベル4以上の大規模噴火に備え、住民の広域避難計画の策定が義務づけられた。

=2019/04/13付 西日本新聞朝刊=

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