2010年7月15日

むすび庵便り・八尋幸隆<2>体験 田んぼは学びの場

「むすび庵」の田んぼで見つけたザリガニを手にした次郎丸絢香さん

 もうすぐ4月。冬枯れしていたあぜ草もいつの間にか緑に変わっていきます。いよいよ田植えに備える田作りの季節の到来です。

 それに合わせて「むすび庵(あん)」には、とりわけ百姓仕事が好きでたまらない「むすび庵百姓隊」のメンバーが集まってきます。百姓隊は、毎月1回行う農と食の交流イベント「農と旬を語ろう会」だけでは満足できない人たちが、もっと深く農を知りたいと集まったもの。現在、10人ほどが登録し、田んぼ仕事を中心に、農業全般の作業に取り組みます。参加の条件は自分たちの農作業に責任を持つことと、お遊びではなく、一人一人が百姓になりきり、真剣に取り組むことです。

 最年少は小学校6年生の次郎丸絢香さん。彼女はたまたま食農教育に熱心な担任の先生とめぐりあい、5年生の時から参加しています。先生に連れられて田んぼに入り、大人に交じって田植えをし、あぜ草を刈って田んぼの生き物を観察するうち、すっかり田んぼにはまってしまいました。

 豊年エビ、カブトエビ、ウンカ、クモ、オタマジャクシ、ナマズやフナの子、ドジョウ、ゲンゴロウ、ミズスマシ…。田んぼには、これまで彼女が知らなかった「宇宙」が広がっていました。彼女が自分でイモリを捕まえ、うれしそうに見せてくれたときは、久々にその姿を見た私が感動しました。夏休みには田んぼでザリガニを捕まえた自分の姿を描いた絵が、JA主催の絵画展で県知事賞を受賞しました。

 さらに学校で取り組んだバケツ稲栽培では、むすび庵の田んぼでの経験をもとに、稲の成長過程を克明に記録。今度は、全国バケツ稲コンテストで、なんと1等賞に輝きました。

 あとでそのリポートを見せてもらいましたが、大学生の卒業論文もかなわないほどの立派なもの。実体験に裏打ちされているだけに、大変力強く、小学生でもこれだけのものができるのか、とうなりました。その成長ぶりには、きっかけをつくった担任の先生も、ひとつの体験がこれほどまでに子どもを変えるのかと、大変驚いた様子でした。

 変化は、それだけにとどまらず、家庭生活や勉学にも波及。これまで引っ込み思案だった彼女が、大人と交じって百姓仕事をするうちに積極性を増し、ついには、「自分で課題を見つけて勉強がしたい」と学習塾もやめてしまいました。やらされるのではなく、自ら進んでやるという精神が身についた結果でしょう。

 田んぼという宇宙で、種まきから収穫までの全過程を体験して得られた感動が彼女を変えた。変わるということが学んだことの証しであるならば、田んぼはまさに学びの場といえるでしょう。 (福岡県筑紫野市「むすび庵」庵主)

=2010/03/28付 西日本新聞朝刊=

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