2010年7月15日

むすび庵便り・八尋幸隆<8>研修生(1) 生命の力に充足感

「むすび庵」の研修生、野口稔弘さん。ナスビの苗を添え木に結びつける作業に精を出していた

 研修生にかかわる話を3回続けたところで、生の声を聞きたいという要望をいただきましたので、2人の研修生に今の思いを書いてもらいました。まずは、昨年11月から研修している野口稔弘さん(35)です。

   ×  ×

 私と農業とのかかわりといえば小さいころ、祖父母の田植えを手伝ったことがあるぐらい。両親は非農家で、昔から農業に関心があったわけではありません。

 大学を出て12年ほど、林業関係の職場で働いていました。林業も農業と同様、自然相手の仕事。自然の生命力のすごさに魅了される中で、山の木と同じように、自分の足で地にしっかりと根を張った生き方、仕事をしたいと考えるようになりました。

 そんなとき出合ったのが、自然農法の提唱者である福岡正信さんの著書「自然農法-わら一本の革命」。「何もしない農法を目指す」という章の中に、こんな一節がありました。

 「健全な稲を作る、肥料がいらないような健全な、しかも肥沃(ひよく)な土を作る、田を鋤(す)かなくても、自然に土が肥えるような方法さえとっておけば、そういうものは必要なかったんです。あらゆる、一切のことが必要でないというような条件を作る農法。こういう農法を、私はずっと追求しつづけたわけです」

 一切のことが必要でない! この言葉に衝撃を受けると同時に情けないかな、何もしなくていいんだ、なんとも楽チンな農法があるではないか、とも思ったのです。早速1年間ほど田畑を借り、野菜や稲を作りましたが、当然のごとく失敗。でも、この何とも短絡的な行動が、すべての始まりでした。

 私は熱しやすく冷めやすいタイプ。普段はすぐに興味は失うのですが、農業は違いました。小さな種から、葉が出て、実が成っていくその生命力の不思議さにひかれ、何ともいえない充足感を感じたのです。この感覚が、本気で農業を目指す原動力になりました。

 むすび庵のことは、ホームページで知りました。単に農作物を作るだけでなく、人や地域とのつながりを大事に生きている八尋幸隆さんの下で研修したいと思い、門をたたきました。

 1年間限定の研修を半ば過ぎて思うこと。それは、人ができることは限られていることと、人は多くのものや人に支えられていること。いい意味で、自分の小ささを感じることができ、少しずつですが、いろんなことに深く向き合えるようになったと思います。

 半年後には、祖父母の土地(福岡県豊前市)で独り立ちします。不安もいっぱいありますが、農業は夢があり、いろんな可能性が詰まった仕事であることを表現していきたいです。

 農業は面白いです。
 (福岡県筑紫野市「むすび庵」庵主)

=2010/05/09付 西日本新聞朝刊=

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