2010年7月15日

むすび庵便り・八尋幸隆<10>有機農業 循環こそ環境守る

「有機農業」という言葉に市民権を与える役目を果たした作家、有吉佐和子さん(故人)=1975年、熊本市で開かれた「いのちと土を守る大会」

 「有機農業の定義は何ですか?」と問われることがあります。有機の語源は漢書にあった「天地、機有り」。機とは大自然の運行などといった意味で、「有機物」ではありません。

 有機農業という言葉は、戦後高度経済成長期の公害、とりわけ食品公害に対する反省から1972年、日本有機農業研究会の設立時に提唱されました。その後、故有吉佐和子さんの新聞小説「複合汚染」などを契機に言葉は市民権を得ました。でも、農薬や化学肥料を使わない農産物の一方で、一部有機とか、いろんな「有機栽培」の農産物が出回りはじめ、どれが本物か分からない状態になってしまいました。

 長年有機農業を無視し続けてきた農林水産省も、この混乱状態は放置できず、近年の有機農産物に対するニーズの高まりに応える形で「有機JAS認証制度」や「有機農業の推進に関する法律」を制定しました。

 法律でいう有機農産物の定義は「(果樹など)永年作物で3年以上、野菜などでは2年以上決められた方法で栽培し、認証機関の認証を受けたもの」。初心者でも所定の期間、決められた有機肥料を使って認証を受ければOKだし、畑ごとの認証ですから、レタスは違うけど、トマトだけの有機農業というのもありなのです。

 私は農薬も化学肥料も使いませんが、認証を受けていないため、生産物を有機あるいは無農薬と称することはできません。ですから、売るときは「農薬を使わないで作った普通の旬の農産物」と言っています。

 この制度最大の問題点は、有機農業で最も大切な循環や環境への思い、他の生き物との共存といったことに対する思いがないこと。安全安心は消費者の権利であり、有機農産物は一商品として効率よく流通すべきという考えの下、モノとしての「安全安心」のみを見ていますから、国内の有機農業を育てることにはなっておらず、認証された農産物の大半は外国産です。

 肥料にも問題が。かつては堆肥(たいひ)などは自給するのが当然でしたから、お金で買う化学肥料のことを「金肥(きんぴ)」と言いましたが、今では堆肥などの有機資材も金肥になりました。つまり誰でもお金で有機肥料を買えば、たとえそれが外国産であっても、有機肥料を使っているという意味での有機農業になるのです。

 その土地で循環してこそ、農業は環境を守るといえる。堆肥も入れすぎれば、環境を保全するどころかむしろ負荷を与え、外国の地力を収奪することになる。食べ物の安全安心だけを考えていると、有機農業といえど、知らず知らずのうちに環境破壊に加担することになりかねないのです。

 そう考えるきっかけになったのが15年前。カンボジアでの農業復興支援の活動でした。続きは次回。 (福岡県筑紫野市「むすび庵」庵主)

=2010/05/23付 西日本新聞朝刊=

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