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【命をつなぐ 臓器移植法20年】<4>先が見えない小さな命

補助人工心臓を着けて週1回、30分だけ散歩をする佐々木あやめちゃん。自分より大きな装置(左)からは片時も離れられない=埼玉県日高市(家族提供)
補助人工心臓を着けて週1回、30分だけ散歩をする佐々木あやめちゃん。自分より大きな装置(左)からは片時も離れられない=埼玉県日高市(家族提供)
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心臓移植を受けられずに9歳で亡くなった石川丈一郎君の遺影を手にする父祥行さんと母優子さん=福岡県久留米市
心臓移植を受けられずに9歳で亡くなった石川丈一郎君の遺影を手にする父祥行さんと母優子さん=福岡県久留米市
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 生活の場は、高い柵に囲まれた小児用ベッドの上。週1回、30分だけ床に降り、おなかから延びる補助人工心臓をぶつけないよう気遣いながら屋外を散歩する。体より大きな駆動装置が常に付いて回る。佐々木あやめちゃん(2)はそんな生活を続けている。

 川崎市の自宅を離れ、埼玉医大国際医療センターに入院したのは昨年11月だった。活発だった子がぐったりするようになった。左室心筋緻密化障害という先天性の心臓病が急激に悪化していた。

 このままでは数カ月の命。残された時間を家で過ごすか、補助人工心臓が着けられる病院で移植を待つか。選択を迫られた母の沙織さん(30)は夫の幸輔さん(29)と相談し、移植を選んだ。幼稚園児の長女(6)と離れ、24時間付き添う生活が始まった。

 「でも、先が見えないんです」。今年1月に日本臓器移植ネットワークに待機登録したが、レシピエント(移植を受ける患者)の候補になったことはない。9月末現在、心臓移植を待つ15歳未満は38人いるのに対し、提供は年1~4件にとどまっている。

 時間がない。補助人工心臓は血栓ができやすく、移植を待つ間に脳出血などで亡くなる人も少なくない。あやめちゃんも一度、おやつを食べているとき、急に右手が震え、顔の右側だけ力が抜けた。脳梗塞だった。幸い、症状は軽かったが、沙織さんは「おやつのたびに不安になる」。

 腎臓や肝臓、肺と異なり、心臓は生体移植ができない。心停止後は機能しないため、脳死段階での提供を待つしかない。その上、心臓の大きさが近いことが条件で、小さな子どもほど同年代からの提供が必須となり、移植の機会は極端に限られる。

 わが子が脳死状態で悲嘆に暮れる親に、臓器提供の話なんてとてもできない-。医療現場の本音が背景にある。

 さらに、脳死下での臓器提供が可能な896病院のうち、18歳未満の提供体制を整えているのは269(3月、厚生労働省調べ)。臓器移植法は虐待を受けた子からの提供を禁じており、虐待の有無を確認する専門委員会が必要だが、3分の2の病院は組織できておらず、家族が提供を希望しても対応できない。

 見通しが立たないあやめちゃん。米国で移植を受けられるよう、両親の友人たちが4月から募金活動を始めた。目標は3億1千万円。公的医療保険が適用されず、補助人工心臓で渡航するには高額のチャーター機も必要となる。

 両親は「多くの人に迷惑を掛けてまで…」と悩んだ。それでも「あやめの顔を見ると、どんなことをしてでも生きてほしい」。家族4人で暮らせる日を諦めたくない。

 「私たちのころとほとんど変わっていない」。福岡県久留米市の石川祥行さん(45)、優子さん(46)夫妻は、心臓移植で海外へ渡る子どものニュースを聞くたびに、10年近く前の嘆きと怒りがよみがえるという。

 2008年2月、長男の丈一郎君は拡張型心筋症のため、9歳で亡くなった。当時の臓器移植法は、意思表示能力がないとして15歳未満の臓器提供を認めていなかった。募金でドイツに向かう準備の最中、容体が急変した。

 「欧米では『移植で助かる病気』が、日本では『亡くなる病気』と説明される。丈一郎は日本人だったから死んだんです」。夫妻の訴えが09年の法改正につながり、15歳未満の提供が可能になった。

 にもかかわらず、いちるの望みをかけて海外へ渡る子どもは後を絶たない。今も、あやめちゃんのほかに少なくとも2人が、心臓移植を受けるため渡航を準備している。

 ●メモ

 日本では子どもの心臓移植の機会が限られ、海外に渡る方が多い。国立循環器病研究センターの福嶌教偉移植医療部長らの調査によると、18歳未満は臓器移植法が施行された1997年から2016年9月までに98人に上った。この間、国内移植は19人。

 国際移植学会は08年、富裕層が途上国で手術を受ける移植ツーリズムや臓器売買を防ぐため「移植臓器は自国内で確保すべきだ」と宣言。以降、欧州では難しくなり、外国籍への移植を一定枠で認めている米国に集中してきた。

 日本の場合、11歳未満の心臓移植手術ができるのは4病院。九州にはないが、九州大病院(福岡市)が認定申請中。一方、米国の移植費用は高騰し、30年前の数千万円から近年は数億円に。福嶌医師は「米国の子の移植機会を奪っており、日本国内の体制を早急に整えるべきだ」と指摘する。


=2017/11/06付 西日本新聞朝刊=

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