小児がんの娘に24時間付き添う母 周囲の無理解…復職の見通し立たず 孤立しがちな患者や家族

小学校から車椅子の長女に常に付き添うよう求められ「復職は考えられない」と話す女性
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【がんと働く】<4>現実は家族の頑張り頼み

 24時間365日、福岡市の女性(32)は小学6年の長女と一緒に過ごしている。「つらい治療を受ける娘のそばにいてやりたくて」。2016年初夏、右脚に骨肉腫が見つかり、いったん仕事を辞めた。

 ただ、家族の役回りは想像以上に多かった。退院して1年半たった今も、復職の見通しは立っていない。

 「病院でできることには限りがあります」。入院先で保護者の常時付き添いを求められた。服薬、検温、清拭(せいしき)…。実際のところ、看護師は忙しく、親の手助けがないと仕事が回らないようだった。

 指導員として働いていた学童保育所を辞め、長男の世話を夫に任せて病室に泊まり込んだ。幸い、家計は夫の収入だけで賄えた。一方、病棟で知り合ったシングルマザーは昼は仕事、夜は看病で疲弊していた。

 1年3カ月に及んだ治療の末、車椅子で小学校に通えるまでに回復した。しかし、その後も付き添い生活は続いた。登下校時に車椅子を押すのは安全上、必要だと思う。一方で、授業中も保健室や空き教室での待機を求められた。

 急に倒れることも、トイレに手間取ることもない。人手が必要なのは唯一、移動だけだった。教室のある1階から上階の音楽室などへ移る際、体を支え、車椅子を持ち上げなければならない。学校や区役所には「そのときだけ介助者を」とお願いした。「何かあったらいけないので、お母さんはいてください」。小児がんに対する無理解から、必要以上に特別視されているように感じる。

 通院で週に3日しか登校できないこともあり、娘は教室で浮いた存在になり始めた。「思春期に差し掛かった子どもたちが、登下校も休み時間も親と一緒の子に話し掛けづらいのは当然ですよね」。今のままでは、親から精神的に自立していく機会まで奪ってしまう。それとも「命が助かったんだから」と全てのみ込まなくてはいけないのか。まだ、仕事どころではない。

 満足に治療を受けられるかは、家族の頑張り次第-。患者数が少ない「希少がん」はそうした傾向が特に強い。

 福岡県飯塚市の会社員、茅原史典さん(52)は08年、父親に神経内分泌腫瘍が見つかった。10万人に6人弱とされる発症確率だった。

 有効性が証明された標準治療はなく、症例も情報も少ない。主治医の「セカンドオピニオンには全面協力する」という言葉で不安が増した。入院先には同じ病気の患者がおらず、スタッフから納得できる説明もない。孤立していく父の姿に居ても立ってもいられず、情報収集を始めた。

 有給休暇を取り、意見を聞きたい一心で、全国に当時約300あった「がん診療連携拠点病院」に片っ端から電話した。セミナーに足を運び、パソコンにかじりついて欧米の論文に目を通した。コンピューター断層撮影(CT)画像を手に東京の病院を訪ね、国内で未承認の薬を使う手だても模索した。

 1年半後、父が72歳で旅立ったとき、有休は使い切っていた。職場の理解で心ゆくまで付き添えたと思う半面、後悔と不満が残った。「正しい情報がないと家族も治療の選択に悩み、振り回される」

 昨夏、膵臓がんの患者支援団体「パンキャンジャパン」(東京)の福岡支部を発足させた。神経内分泌腫瘍と難治性の膵臓(すいぞう)がんについて、専門医らと連携して情報発信し、がんサロンを開いて患者や家族に寄り添っている。

 いつ患者やその家族になってもおかしくない。自分と同じような後悔と悩みが繰り返されないよう、がんを知り、受け入れる社会になってほしい。そう願っている。

 ●患者や家族のサロン広がる

 小児がん、希少がん、難治性がんなどの患者や家族は、患者の少なさや情報不足から孤立しがちだ。2017年度から6年間の国の指針を定めた第3期がん対策推進基本計画では、患者団体などと協力した相談支援や情報提供の必要性をうたっている。

 当事者同士が気軽に悩みを語り合える場として、がんサロンや患者会がある。病院、患者団体、保健所などが主催し、年々活発になっている。

 熊本市では、就労世代を対象にした「働き&子育て世代のためのがんサロン」が12年から、毎月第3土曜日に開かれている。平日の昼間だと参加しにくく、高齢者のがんと悩みが異なるため、患者たちが発案した。3月17日のサロンには30~60代の13人が参加=写真。早期退職やパートを掛け持ちしている近況について報告し合った。

 幼い子を連れた30代女性は卵巣がん治療で会社を休み、1年半になる。退職届を出すか悩んでいたが、サロン仲間に「転職は厳しい」「仕事のストレスと再発は関係ない」と助言を受け、短時間勤務で復帰することにした。「ここに通ううちに『なぜ自分だけが』という孤独感が薄れ、前向きになれた」と振り返る。

 福岡市では、小児がん経験者を支援する認定NPO法人「にこスマ九州」が集いやキャンプを開催。国立病院機構九州がんセンターでも親の会が毎月開かれている。

=2018/04/30付 西日本新聞朝刊=

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