CT報告書「見落とし」続発 カルテ電子化 多忙も影響 九州の病院 対策急ぐ

大量の画像データを読影する放射線診断専門医=6月21日、久留米大病院
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 コンピューター断層撮影装置(CT)の画像診断報告書の記載を主治医が見落とし、がんなどの治療が遅れるミスが相次いでいる。6月だけでも、千葉大病院、兵庫県立がんセンター、横浜市立大が発表。九州の基幹病院も「ひやりとしたインシデント(出来事)も含めると珍しくない」と打ち明ける。関係者は、電子カルテの普及で紙の報告書をやりとりしなくなったことや、医師の多忙さ、専門の細分化などが背景にあると指摘する。

 医療事故の情報を収集している日本医療機能評価機構によると、見落としによる治療の遅れは、2015年1月~17年9月に全国の病院から32件が報告された。内訳はCT29件▽磁気共鳴画像装置(MRI)2件▽陽電子放射断層撮影装置(PET)1件。10件は死亡や障害残存と因果関係があったという。

 ほとんどのケースで、見落としていた部位は主治医の専門外だった。CTには周辺の臓器も映り込む。例えば、泌尿器科医が腎臓の撮影を放射線部に依頼した結果、肺に腫瘍が見つかる場合もある。ただ、自分の専門外の臓器だと目が向きにくい。

 「8年前に電子カルテを導入してから見落としが起きている」と明かすのは福岡市の内科医。勤務する病院では、主治医は撮影の1時間後にパソコンの電子カルテ上で画像を確認できる。専門の部位は読影(どくえい)できるため、患者にはその場で結果を伝えて帰す。

 一方、放射線診断専門医が全ての画像を読影して報告書を完成させ、電子カルテに収載するのは翌日以降となる。患者が再び受診しなければ、カルテを開く機会はなく、報告書も読まれずに放置されがちという。

 この内科医は狭心症などで胸部CTを年に300人ほど撮り、1~2人から肺がんが見つかるという。「カルテを電子化する前は、紙の報告書が主治医の手元に届くので読み忘れはなかった。実物がないと、仕事に追われるほど忘れてしまう」と吐露する。

   *    *

 どうすれば見落としを防げるのか。九州の複数の特定機能病院に聞いた。

 久留米大病院(福岡県久留米市)では、数年前に1件の見落としがあった。治療が続いているとして詳細は明らかにしていないが、患者には説明したという。放射線診断専門医ががんの疑いを報告書で指摘したが、主治医が見ていないケースだった。

 CTは20秒の撮影で約300枚の画像をデータ化する。読影スタッフ10人ほどで1日約160人分の画像を確認するため、報告書の完成は数時間後か翌日になるという。放射線科診療部長の安陪等思(とうし)教授は「異常があった場合、主治医に直接電話をしていたが、不在で連絡が抜け落ちることがあった。この夏からは紙のカードでも主治医に伝え、既読を確認する」と話す。

 九州大病院(福岡市東区)は「命に関わるようなものはないが『ヒヤリ・ハット』レベルの見落としはある」とする。そうした情報は院内研修や幹部会議で共有し、注意喚起。報告書の既読、未読が一元管理できるシステムを来年にも導入する予定という。

 ただ、人員に限りがある中で検査が増え、画像も高精度化し、ミス防止には限界もある。医療安全管理部長の後信(うしろしん)教授は「患者さんも主治医に検査結果を確認したり、報告書のコピーを頼んだりして、自身の治療に注意を払ってほしい」と求める。

 熊本大病院(熊本市中央区)は「過去7年間のインシデントレポートには画像の確認漏れに関する報告はない」と文書で回答した。昨年9月からは全ての画像検査について、主治医の既読をチェックしているという。

 福岡大病院(福岡市城南区)は「回答を差し控える」。複数の関係者によると、数年前にがんの見落としが分かり、その後に患者が死亡。治療の大幅な遅れはなく、因果関係はないとされた。再発防止策として、異常があれば、放射線診断専門医から主治医に直接メールを送るシステムを構築。主治医の上司もチェックをしているという。

 ●患者も情報求めよう 患者の権利法をつくる会 常任世話人 久保井 摂弁護士

 全国で続発している画像診断でのがんの見落とし。患者の立場で防ぐ方法はあるのか。医療過誤や患者の権利に詳しい久保井摂弁護士(福岡市)に聞いた。

 医療過誤に関する訴訟や相談を数多く手掛ける中で、見落としは「ありふれたこと」という印象だ。主治医も放射線診断専門医も専門が細分化され、適切に画像を鑑別できる医師が少ないのではないか。

 ミスを防ぐには、患者と医師のコミュニケーションが不可欠。医師が問診で患者から情報を引き出し、疑われる疾患を的確に診断すれば、必要な検査はおのずと決まる。漫然と結果を見るのではなく、特定の疾患を疑って判読すれば見落としは減るだろう。患者も症状や経過をきちんと伝えなければいけない。

 ただ、自覚症状などがなければ、患者の立場では防ぎようがない。患者とも診療情報を共有できる電子カルテの普及などが必要だろう。

 現状では、日頃から自分が受ける検査の目的や結果、診断の根拠についてきちんと質問する姿勢が重要だ。できれば検査結果報告書のコピーをもらい、目を通すと良い。画像診断報告書は専門用語も多いが「○○の疑い」などと記され、主治医に質問したり、インターネットで調べたりすれば読み取れる情報はある。

 医療が万能ではないことを前提に、患者は程よく疑問を持とう。自らの病状や治療について適切な情報を得られないと、自分らしく治療し、生きる選択ができない。患者の権利を正しく行使することが医療過誤の防止につながる。

=2018/07/02付 西日本新聞朝刊=

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