がん治療薬「オプジーボ」、過剰な期待に警鐘も ノーベル賞で注目集める

オプジーボの効果などを説明する呼吸器外科の山崎宏司医師=福岡市の九州医療センター
オプジーボの効果などを説明する呼吸器外科の山崎宏司医師=福岡市の九州医療センター
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 本庶佑(ほんじょたすく)京都大特別教授がノーベル医学生理学賞に決まったことで、「オプジーボ」など「免疫チェックポイント阻害薬」と呼ばれるがん治療薬への注目が集まっている。人の体が本来持つ免疫力を高めることによってがん細胞を攻撃する新しい手法で、従来の手術、抗がん剤、放射線療法に続く「第4の治療法」と期待される。しかし現状では効果のある患者は限られ、副作用もある。一部のクリニックが、効果が証明されていない高額な免疫療法を宣伝するケースもあり、高まりすぎた期待を懸念する声もある。

 10月下旬、国立病院機構九州医療センター(福岡市中央区)の治療室から、女性(75)が軽い足取りで出てきた。11年前に肺がんの手術を受け、骨に転移。今年6月、骨のがんの再発が確認された。7月に入院した際は「声を出したり歩いたりするのも難しいほど背中が痛かった」と言う。

 受けた治療は、オプジーボと同種の「キイトルーダ」の投与。3週間に1度通院し、約30分間の点滴を受ける。最初の投与から1週間ほどで痛みが和らぎ、今では毎日、自転車で職場の食品製造工場に通い、立ち仕事をこなせるまでになった。女性は「私には仕事が生きがい。こんな素晴らしい薬を開発してもらい、感謝しています」と話した。

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 担当する呼吸器外科の山崎宏司医師は、オプジーボが肺がん患者に使えるようになった2015年末以降、この薬を多くの患者に使ってきた。山崎医師は「効果が出た患者は2割ほどだが、治療の選択肢は大きく広がった」と話す。

 ただ、オプジーボは全てのがん患者が使えるわけではない。厚生労働省が承認し保険適用されるのは、悪性黒色腫(皮膚がんの一種)▽非小細胞肺がん▽腎細胞がん▽ホジキンリンパ腫▽頭頸部(とうけいぶ)がん▽胃がん▽悪性胸膜中皮腫-の7種。さらに、手術不能などの使用条件も設けられている。

 副作用が出ることもある。特に注意が必要なのは、従来のがん治療では起こらなかった自己免疫疾患の副作用だ。免疫が過剰に活性化して自分の体まで攻撃してしまう症状で、甲状腺の機能低下や大腸炎、糖尿病などを引き起こす。がんの専門医には対処が難しい場合があるため、九州医療センターでは、呼吸器や消化器、内分泌などの医師による委員会を編成し、副作用の対応に当たっている。

 山崎医師は「予想もできない症状が出る場合があるため、総合病院での受診が望ましい」と指摘する。

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 「大腸がんに使えますか」「自費でも投与できるクリニックを教えて」「私の主治医はなぜ使ってくれなかったのか」…。

 国立病院機構九州がんセンター(同市南区)のがん相談支援センターには本庶さんの受賞が報じられて以来、オプジーボに関する相談が20件以上寄せられた。特定の薬についての相談がこれほど集中するのは異例。相談員の看護師らは、保険適用のがんは限られ、効果が限定的で副作用もあることなどを説明し「まず主治医に『使ってみたい』と相談してみて」などと応じている。

 同時に、免疫療法に関する相談も増加しているという。インターネット上には、効果や安全性が証明されていない保険適用外の免疫療法を、ノーベル賞に絡めて宣伝する民間クリニックもある。ある腫瘍内科医は「効果も出ずに高額な治療費を請求される結果になりかねない」と懸念する。

 がん相談支援センター長の古川正幸副院長は「オプジーボも臨床的にはまだ研究途上で、決して万能ではない。安易に自由診療で免疫療法を受けることは勧められない。ネット上の情報をうのみにせず、情報を整理するためにもがん相談支援センターなどに相談を」と呼び掛けている。

 ●対象疾患の拡大など、進む臨床研究 九州がんセンター 江崎泰斗医師

 オプジーボやキイトルーダといった「免疫チェックポイント阻害薬」は、まだ開発途上のがん治療薬だ。どのような研究が進められているのか。国立病院機構九州がんセンター(福岡市南区)の江崎泰斗臨床研究センター長に聞いた。
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 現在進められているのは、まず、適用対象の疾患を広げるための臨床研究。免疫チェックポイント阻害薬は、薬ごとに保険が適用できるがんが限られているが、さらに食道がんや肝臓がん、卵巣がん、乳がんの一部などにも効かないかという期待がある。

 また、現状では疾患ごとに「手術が不能」「従来の抗がん剤が効かない」といった治療対象となるための条件が定められているが、より早い段階から使えるようにできないか、という研究も行われている。抗がん剤治療などを続けると徐々に免疫力が落ちていくといわれるので、早い時期から免疫療法を施すことで、より高い効果が得られる可能性がある。

 投与前に効果を予測する検査「バイオマーカー」の確立や、抗がん剤と免疫チェックポイント阻害薬の併用療法などについても研究が続けられている。

 条件が合えば、治験に参加してもらうこともできる。詳しくは、がん診療連携拠点病院に設けられている「がん相談支援センター」に問い合わせてほしい。 (談)

=2018/11/05付 西日本新聞朝刊=

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