「上手な医療のかかり方」 医師の働き方改革 不要不急を減らすことから 医療の質維持のため 受診抑制の心配も

赤ちゃんを連れた母親たちに子どもの病気について話す「知ろう小児医療守ろう子ども達の会」の森さん=10月19日、東京
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懇談会にはアーティストのデーモン閣下さん(右)らが参加している
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 医師の長時間労働是正に向け、論点の一つとなっているのが患者の意識改革だ。厚生労働省は10月、「上手な医療のかかり方」を考え、広めるための懇談会を初めて設置した。正当な理由なく診療を拒めない「応召義務」がある医師の働き方改革には、不要不急の受診を減らすなど、患者側の理解が鍵を握る。

 「救急医療の維持はぎりぎりです」。10月中旬、厚労省であった第2回懇談会。東京女子医大東医療センター救命救急センターで後期研修中の赤星昂己(こうき)医師は訴えた。

 救急センターでは、8人の医師が365日24時間態勢で患者を診ている。赤星さんの場合、週の勤務時間が100時間に及ぶこともあり、完全な休日は月に2日程度。連続24時間以上働いても仮眠や食事がほとんど取れないこともある。

 ある日の夜間当直。日中は50人以上を診て、救急車4台を受け入れた。夜間も10~30分おきに急患に対応した。明け方に交通事故で右腕を負傷した人が救急搬送されてきた際、右と左を間違えてエックス線検査を依頼しそうになった。

 「夜間受診した11人中10人は風邪や下痢症状だった。本当に夜間でなければならなかったのか。左右を取り違えそうになったのは単純ミスなのか」と、過労による医療ミスへの不安をにじませた。

 赤星さんは「時間外受診は患者も医師もお互いに損です」と続けた。受診料は割り増しで、完璧に検査はできない。薬も数日分しか処方できず、疲弊した医師が診る可能性もある。「救急医療を安全なものとするため、皆さんの理解と協力が必要です」

 医師の疲弊によって地域医療が崩壊する-。そんな危機的状況を、市民の意識改革で変えたケースがある。宮崎県延岡市では2002年以降、県立延岡病院で医師の退職が目立ち始め、診療科の閉鎖が相次いだ。夜間・休日の急患が10年あまりで約3倍に増えたことが大きな要因だった。

 09年、自治会や商工会議所が中心となり、署名活動をスタート。県に医師の補充を求めた上で、市民には安易な時間外受診を控えることなどを呼び掛けた。署名は1カ月で人口約13万人(当時)を超える約15万筆が集まった。

 市は「地域医療を守る条例」を全国で初めて制定し、かかりつけ医を持つ、適正な受診-などを市民の責務として明記した。同時に、不安を解消するため、医師や看護師による「救急医療ダイヤル」を設置し、受診の必要性を相談できるようにした。この結果、時間外受診はピーク時から半減したという。

 市地域医療対策室の吉田昌史総括主任は「市民による啓発で危機感が広がり、医療はサービスではなく、限りのある資源だと伝わった。地域医療を守ることが自分ごとになり、行動につながった」と説明する。

 「突然の高熱や嘔吐(おうと)で、不安になるのは当たり前。子どもの病気について知らないからです」

 10月、東京都杉並区の子育て支援施設に集まった母親約40人に、森さくらさん(37)は語りかけた。一般社団法人「知ろう小児医療守ろう子ども達の会」の副代表。07年から乳幼児の保護者向けに子どもの病気を学ぶ講座を開いており、約5千人が受講した。

 きっかけは、代表の阿真(あま)京子さん(44)が友人の小児科医から「寝ないで24時間働き続けるパイロットの飛行機に子供たちを乗せたいでしょうか」というメールを受け取ったこと。休日や夜間の救急外来に来る小児患者の9割以上が入院の必要のない軽症者だ。

 「子どもに安全な医療を受けさせるためにも、不要不急な受診は避けたい。時間外に受診するのは親たちが不安だから。救急にかかるべき時と、家で様子を見ていい時を学び、判断できるようになることが大切」と阿真さん。会が協力して作った受診の目安を示す冊子を乳児健診で手渡したところ、急患が大きく減った自治体もある。

 厚労省は12月、懇談会の議論をとりまとめる。今後は上手な医療のかかり方を広めるウェブサイトをつくるほか、小児救急電話相談「#8000」などの周知徹底、働く人が診療時間内に受診できるように企業に協力を求める‐などの取り組みを進める方針だ。

 ただ、こうした動きに懸念の声もある。「日本難病・疾病団体協議会」の代表理事で、膠原(こうげん)病患者の森幸子さん(58)は「受診抑制につながらないよう、啓発の方法を工夫してほしい」と訴える。難病の診断は難しく、森さんも診断まで4年かかり、病院を転々とした。

 森さんは「秩序を守った受診姿勢は大切だが、症状が急変しやすく、時間外受診が欠かせない人、大きな病院でなければ診断がつかない人もいる。患者に配慮した視点を忘れないでほしい」と話した。

=2018/11/19付 西日本新聞朝刊=

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