子どものみとり 在宅でも 進む医療側のサポート 「家族と一緒の時間」選択肢に 訪問診療医と熊大病院が連携

医療関係者向けに、子どもの医療的ケアに関する講習会を開く熊大病院の小篠史郎医師(中央)。子どものみとりを含めた在宅医療の充実を目指す
医療関係者向けに、子どもの医療的ケアに関する講習会を開く熊大病院の小篠史郎医師(中央)。子どものみとりを含めた在宅医療の充実を目指す
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 愛する家族の最期は自宅で一緒に過ごしたい-。そんな願いは高齢者に限らず、重い病で命に限りのある子どもにも共通する。子どもの最期を自宅でみとる選択肢を提供しようと、医療側のサポートが広がりつつある。そんな試みの一つ、熊本のケースを取材した。

 熊本市の女性(38)は妊娠8カ月だった昨年2月、定期健診で「(胎児の)心臓に異常がある」と告げられた。その後、小児専門病院で先天性心疾患の指定難病「単心室症」と判明。医師は「生後(唯一の治療法となる)手術をしても助かる見込みは少ない。赤ちゃんの体力が手術に耐えられるかも分からない」と説明した。

 4月、熊本大病院(同市中央区)で出産。体重3400グラムの元気な男の子で、心疾患があるようには見えなかった。しかし、心臓内で血液が逆流するなど症状は重く、医師から「手術を繰り返さなければならず、その都度成功するかは保証できない」と告知された。

 助かる見込みがないまま、手術を繰り返して小さな体を傷つけることは耐えられない。面会制限のある病室では長男(3)と長女(2)にも会わせられない。「きょうだい一緒に過ごさせたい」。夫婦で話し合いを重ねた末、手術しないと決断した。

 生後8日で退院。家では子どもたちが取り合うように男児をかわいがり、夜は川の字で眠った。そして、生後17日目の5月6日、家族4人に見守られながら男児は静かに息を引き取った。

 今もきょうだいたちはふと見えない弟に呼び掛ける。「帰ったよ、遅くなってごめんね」「何してる?」。女性は「子どもたちの中で弟の存在は消えていない。家でみとったことに後悔はない。簡単に出した答えではないから」。

 このケースは熊大病院が、訪問診療医でつくるNPO法人「熊本在宅ドクターネット」の医師に依頼し、態勢が整った。

 小児専門の訪問看護師が自宅を毎日訪れたほか、母乳を飲まないなどの異変があれば、すぐに訪問診療医の松本武敏医師が駆け付けた。専門は内科や緩和ケアで、普段の患者は高齢者がほとんど。子どものみとりは初めてだった。

 10日間で4回訪問し、黄疸(おうだん)の症状や酸素モニターの数値から病状の変化を家族に説明した。「経験がない自分で良いのかと思ったが、子どものケアに慣れた訪問看護師の存在が大きかった。今後もできる限り引き受けたい」と振り返る。

 熊大病院と同ネットは2016年末から連携を深め、これまでに男児を含む子ども4人をみとった。熊大病院小児在宅医療支援センターの小篠史郎医師は「今までは親が希望しても訪問診療医の確保が難しく、子どもが自宅で最期を過ごすという選択肢がなかった」と指摘する。

 厚生労働省の推計(14年)では、往診や訪問診療など在宅医療を受けた患者総数15万6400人のうち、0~14歳はわずか400人。子どもの在宅医療に取り組む大阪発達総合療育センター(大阪市)の船戸正久副センター長は「子どもは容体が変わりやすく、在宅医1人で24時間対応を引き受けるのは負担が大きい。医師の養成課程でみとりの重要性などの臨床倫理を学ぶ機会も不十分」と担い手不足の要因を分析する。「小児専門の訪問だけでは診療所は採算が取れない」(小篠医師)ことも背景にある。

 みとりを含めた小児の在宅医療を担う医師を増やす取り組みも始まっている。

 大阪府医師会では17年度、府の委託事業で、高齢者を診る訪問診療医らが小児科医の往診に同行する研修を始めた。医療的ケアが必要な子どもたちの地域の受け皿確保が目的で、参加者数は初年度の5人から昨年度は13人(見込み)に増えた。

 参加した医師からは「定期的に同行し、共同診療するのが望ましい」「若いうちから小児の在宅医療の現場に触れるとハードルが下がると思う」といった感想が寄せられた。

 熊本在宅ドクターネット理事で、ひまわり在宅クリニック(熊本市南区)の後藤慶次院長は「いきなり子どものみとりを担うのはハードルが高い」と話す。このため、熊大病院の医師や看護師が、訪問診療医から相談を受けたり、患者宅に同行訪問したりして支えている。

 後藤院長は、ほとんど接点がなかった中核病院の小児科と訪問診療医の連携を「軽い症状なら訪問診療医が薬の処方もできるため、病院に連れて行く頻度が減り、家族の負担軽減につながる」と意義を強調。「まずは医療的ケアが必要な子どもの訪問診療から広めていきたい」としている。

 ●受け皿が足りない

 ▼子どもの在宅医療に詳しい前田浩利医師(東京)の話 子どもの場合、保護者が「治療をしない」ということを受け入れ難く、ほとんどのケースで入院を選択している面もあり、在宅でみとる態勢が整った地域は一部を除いてほとんどないのではないか。そもそも医療的ケアの必要な子どもたちの訪問診療を引き受ける医師は圧倒的に少ない。小児専門の医療機関と訪問診療医が連携を強めることは意味がある取り組みだ。

=2019/02/17付 西日本新聞朝刊=

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