がんの人に、どう声を掛ける 「負けないで」は 負担になっていないか 善意の押しつけにならないよう

「お守りは今でももらいますよ」と笑う山内千晶さん
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 競泳女子の池江璃花子選手(18)やタレントの堀ちえみさん(52)ら有名人のがんの公表に対し、会員制交流サイト(SNS)などで多くの“エール”が寄せられている。日本人の2人に1人ががんになる時代、家族や友人、同僚からがんを告白されるケースも増えていく。特に、若い世代の患者は孤独を感じやすいといわれる。周囲はどう向き合ったらいいのだろうか。

 「がん患者への『負けないで』という言葉を聞くとある人を思い出します」。福岡がん患者団体ネットワーク「がん・バッテン・元気隊」の副代表、山内千晶さん(48)は切り出した。33歳で急性骨髄性白血病と診断された山内さんが、同じ時期に闘病した同世代の女性。骨髄移植後の合併症で亡くなった。

 「あんなに若いのに病気に負けて」。葬儀で故人の親戚がつぶやいた。そばで小学生の娘がうつむいていた。思わず「負けてなんかいない。精いっぱい生き抜いた。胸を張って自慢していい」と両手を重ねた。

 がんは勝つものでも負けるものでもない-。山内さんは闘病経験から痛感したと言う。「もっと頑張ればきっと治る。ポジティブでいなくては」と治療中、無理に自分を奮い立たせ、周囲には気丈に振る舞った。しかし、病状は一進一退で治療の終わりは見えない。弱音を吐けず、ある時「心がポキッと折れた」。うつ状態になっていた。

 治療を頑張るのはあくまでも医療者。「患者としては現実をありのまま受け入れることが大切だった」と振り返る。

 抗がん剤の副作用で不妊になり、女性として否定されたような気持ちにもなった。友人に相談すると「(命が)助かっただけいいじゃない」「ぜいたくな悩み」と諭された。患者は何も望んではいけないのかと悲しくなった。

 白血病が再発し、骨髄移植を経験。45歳で乳がんと診断され、今も経過観察中だ。

 白血病の治療後、再び社会とのつながりを持ちたいと就職活動を始めた。病気のことを採用担当者に伝えると、条件も聞かれず「治療に専念したらどうですか」。がんになる前の自分に戻れないのが悔しく、社会からの疎外感に襲われた。

 さらに、頭を悩ませたのが知人らからの「贈り物」。特別な水やサプリメント、漢方に水晶…。お守りやお札も大量に届き、ありがたい半面、困惑もした。宗教系の勧誘も多く、断ると「せっかくあなたのためにやってるのに」「信じないから病気になるんだ」と怒られた。上司や親戚だったらより断りづらく、負担も大きいだろう。

 「善意の押しつけは断るのが負担。苦痛でプレッシャーにもなってしまう。何かしてあげたいなら『何が必要?』と尋ねてみて」と訴える。

 それでは、どんな言葉を掛ければいいのか。無料通信アプリ「LINE(ライン)」でヒントになるスタンプが販売されている。

 発案したのは大阪ガス近畿圏部ソーシャルデザイン室の谷島雄一郎さん(41)。35歳で希少がんが食道に見つかり、肺にも転移した。闘病経験と芽生えた問題意識を価値に変え、社会への還元を目指す団体「ダカラコソクリエイト」を2015年に立ち上げた。

 17年、39歳以下でがんになった88人にアンケートを実施した。「実は迷惑だったり、腹が立ったりしていたこと」を問うと「不用意な言動」「過剰な気遣い」「仕事で戦力外扱いをされた」などが挙がった。谷島さん自身「親より先に死ぬのは親不孝」「子どもがいるのに」など、最も悔しく、どうにもできないことを言われ、憤りを感じた経験がある。

 「患者はつらい経験をしたからこそ、掛けてもらってうれしい言葉も知っている」と、患者仲間約20人の協力を得て、スタンプを作った。人の心を癒やす忍法が使える猫「ニャ助」とカッパ「パ次郎」のゆるキャラ2匹を通して、「はやく会いたい」「泣いてもええんやで」「アホはほっとったらえーねん」などのメッセージを発信する。サイトでは、こうした言葉を掛けられた状況や選んだ理由なども紹介している。

 同じがん患者でも、種類や病状などによって状況や心理状態は違う。谷島さんは「一番大切なのは自分が同じ立場だったらと想像すること」と指摘。「生きづらい思いを抱えている人に寄り添いたいけれど、掛ける言葉が分からないという人の参考になればうれしい」と話している。

=2019/03/18付 西日本新聞朝刊=

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