ヤキリンゴ再びブーム 昭和の味、定番レトロ菓子の秘密解明! 由来は「ブッセ」当初はリンゴなし [長崎県]

「ぱんのいえ」は、発祥の東洋軒からヤキリンゴの製法を受け継いだ
「ぱんのいえ」は、発祥の東洋軒からヤキリンゴの製法を受け継いだ
写真を見る
リョーユーパンの社史には「1962年 ヤキリンゴ大ヒット」とある。九州一円に広まった
リョーユーパンの社史には「1962年 ヤキリンゴ大ヒット」とある。九州一円に広まった
写真を見る
新上五島町から高速船で長崎港に届いた、素朴な味わいのヤキリンゴ
新上五島町から高速船で長崎港に届いた、素朴な味わいのヤキリンゴ
写真を見る

 丸いケーキのような生地でバタークリームを挟んだシンプルな菓子パン「ヤキリンゴ」。九州を中心に昔から親しまれてきたが、最近になって発祥の地の長崎から再びブームが巻き起こっている。考案した店から製法を引き継いだパン店が人気を集め、新上五島町から長崎市へ船便でヤキリンゴを運ぶビジネスまで登場した。注目を集めるヤキリンゴの秘密とは-。

 ヤキリンゴという名称ではあるが売り出してから長い間、実は材料にリンゴが使われることはなかった。不思議に思ってきた消費者も多いはずだ。ヤキリンゴ発祥の店とされる、1920(大正9)年創業で2014年に閉店したベーカリー「東洋軒」(長崎市)の元社長、桑野省吾さん(79)が開発秘話を明かした。

 1960年ごろ、クリームをはさんだ焼き菓子「ブッセ」が東京土産として流行していると知った創業者で父の万吉さん(故人)が「ブッセを安く提供すれば売れる」と考えて独自に開発。包装をどうするか迷い、在庫にたまたま「焼きりんご」と書かれた袋があったため、間に合わせのように包んで売り出したところ、狙い通り大人気になった。

 当時20代だった省吾さんは「形も丸くて似ているし、名称はヤキリンゴでも良いだろう」と、長年考えてきたが、販売開始から半世紀がたった頃、客から「なぜリンゴが入っていないの?」と尋ねられることが増え、クリームに加え、リンゴのシロップ漬けを挟むようになったという。

 偶然から生まれたヤキリンゴの名を九州や中国地方にまで広めたのは、リョーユーパン(福岡県大野城市)だ。東洋軒がヤキリンゴを発売した後、リョーユーパン側に作り方を提供、九州一円だけでなく、遠くは関西圏まで出荷されるロングセラー商品に成長した。

 リョーユーパンの社史には「1962年、ヤキリンゴが大ヒット」とある。続けて「もともと長崎の東洋軒が作っていたもので、オリジナルにはどうやらクリームと一緒に焼きりんごが入っていたらしい」と説明されているが、その当時、オリジナルにもリンゴは入っていなかった。

 リョーユー版のヤキリンゴは、店頭に並ぶ同社商品の中で最も古く、定番の「マンハッタン」や「銀チョコ」よりも長く愛されている。企画広報部の菊池崇央さんは「子から孫へと世代を超えて食べ継がれているのが人気持続の要因ではないでしょうか」と分析する。すぐに姿を消す新商品もある中、55年間安定的に売れているという。

    ◇      ◇

■上五島からの“逆輸入”人気呼ぶ

 東洋軒が後継者難で閉店することになり、桑野さんが「店の味を守ってくれないだろうか」と頼んだのが、時津町浜田郷に本店がある手作りパンの店「ぱんのいえ」だった。

 製法を継承し、現在は「焼りんご」の名称で長崎市の繁華街などを含む全3店舗で販売している。生地づくりには小型ミキサーを使い、1回の作業で作ることができるのは28個だけ。多くのファンに届けるため、手間のかかる作業を何度も繰り返し、製造している。

 昔を懐かしんで買い求める客からは「高校生の頃、購買部でよく買っていた」「青春時代にタイムスリップしたみたい」との声が聞かれるといい、森田裕美子店長は「ヤキリンゴには長崎の歴史もサンドされている。皆さんの思い出まで背負っていると思うと、背筋がピンと伸びる」と笑う。

 ヤキリンゴを巡っては、長崎の離島を舞台にした新たな動きも。新上五島町の産業サポートセンター「シマビズ」が昨年10月、町内のパン店3店舗でも製造・販売しているヤキリンゴを高速船に積んで長崎港(長崎市)に届ける“逆輸入”の取次サービスを始めたところ、報道や口コミで広まり、若い五島列島出身者を中心にヒットした。

 老舗の市川商会(市川節子店主)は1日おきにヤキリンゴを作っていたが、サービス導入後は毎日生産しなければ追いつかないほど。百貨店の催事でも「目玉商品」として好評で、11月上旬の松坂屋静岡店(静岡市)の催事では、9日間で計630個を完売した。

 仕掛け人でシマビズの平義彦センター長は「新たな活路を見いだせた」。取次サービスは、修学旅行で長崎を訪れた北海道の学校が活用した実績もある。

 リョーユーパンも商機ととらえ、長崎支店の強い要望を受け、今年9月にはクリームに加えて甘く煮たリンゴをサンドした新商品「ヤキリンゴデラックス」を発売。通常のヤキリンゴはリンゴなしの4個入りパックだが、1個ずつスーパーのパンコーナーなどで売られている。

 日本各地で新たなファンを獲得しつつあるヤキリンゴ。東洋軒元社長の桑野さんは言う。「ふとした時に手にとって無性に食べたくなる素朴な味。懐かしさと目新しさがヤキリンゴには共存しているんでしょうか」

=2017/11/23付 西日本新聞朝刊=

西日本新聞のイチオシ [PR]

西日本新聞のイチオシ [PR]