祈りの歌、平戸から米国へ CD共作や故郷コンサート手応え 来年ミネソタで公演 [長崎県]

浦上天主堂に保存されている被爆マリア像
浦上天主堂に保存されている被爆マリア像
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平戸公演で、天に向かい平和を祈るポーズを取る松口ようこさん
平戸公演で、天に向かい平和を祈るポーズを取る松口ようこさん
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高島滝一郎さんの指揮で熱唱する市民合唱団
高島滝一郎さんの指揮で熱唱する市民合唱団
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コンサートに備えて練習する松口ようこさん(左)を見守る門谷憲二さん
コンサートに備えて練習する松口ようこさん(左)を見守る門谷憲二さん
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 10月27日、平戸市の平戸文化センターから長崎市の爆心地に向け、祈りと平和を願う歌声が発せられた。平戸在住のソプラノ歌手松口ようこさんを中心に、市民合唱団120人も加わった「被爆のマリア」コンサート。聴衆の心を捉えた楽曲の軌跡をたどった。

 松口さんは岡山県の作陽音楽大声楽科卒。透明感あふれる声で、音楽ジャンルを超えて活躍している。海外のアーティストとの共演も多い。

 昨年7月、今回のコンサートで披露した曲を収録したCD「被爆のマリア」をリリース。長崎原爆で焼け焦げた浦上天主堂のマリア像に触発された門谷憲二さん(70)=平戸市出身=が作詞、松口さんが作曲を手掛けた。

 「罪を重ね」「捧(ささ)げしもの」「沈黙の灰の中で」「Believe」。曲名からも想起されるように、全8曲で原爆への怒りや、平和の尊さを祈り続ける覚悟を表現した。

 〈踏まれることを知らない人間に爆弾を渡したのは誰だ〉

 「天使は眠っていた」にはこのような歌詞もあり、ステージに立った松口さんは全身を使い、感情を込めて歌った。

   ◇    ◇

 公演の数日前、帰郷した門谷さんに「被爆のマリア」に懸ける思いを聞いた。門谷さんは布施明さんの「君は薔薇(ばら)より美しい」をはじめ、歌謡曲を中心に1500曲以上を世に送り出している。

 「長崎県出身でありながら、不覚にも浦上天主堂のマリア像の存在を知らなかった。訪ねてみると現物は非公開だったので、一昨年5月に再訪して見せてもらった。意外に小さかったが、衝撃は大きかった」

 両目は空洞化し、右頬が黒焦げになったマリア像は何かを伝えたがっている。そう直感した門谷さんは、そのメッセージを探るのが表現者の使命だと思った。米国民は信仰の象徴の頭上に原爆を落としたことを知っているのだろうか-。

 何者かの手で書かされているような不思議な感覚で言葉が生まれた。1編できては松口さんに渡す。半年ほどで形になった。やがてこの歌曲を「オール長崎」で世に出したいと考えるようになった。

 県内の弦楽奏者やコーラス隊に声を掛け、録音するスタジオを探し、ジャケット撮影のカメラマンも地元で手配した。大手レコード会社から発売したCDのジャケット裏には、たくさんの協力者の名前が並ぶ。

 制作過程や昨年7月の長崎市での初演で、こんな声が寄せられた。「長崎は爆心地であり、今も被爆者が多い。悲劇を思い出させる『被爆』の2文字を外してほしい」

 それでは意味を成さないと門谷さんは考える。当事者の悲しみをすべて受け止め、終わらない被爆を掘り起こし、かくはんする役目を担おうと決意した。

   ◇    ◇

 〈暗黒の雲は消え失(う)せ輝きは世界にあふれる I do believe〉

 平戸公演はこの歌詞で締めくくった。2人は成功を実感している。

 「会場の皆さんの反応が良かった。平和への願いが伝わったのだとしたらうれしい」と松口さん。門谷さんは「故郷の人たちが共鳴してくれた。県北からの発信だったが、いろいろな所でやっていける下地ができたのではないか」と手応えを口にした。

 公演を主催した平戸文化創造研究会会長の川上茂次さん(68)も「聴衆は歌詞の意味を深く捉え、澄んだ歌声に酔いしれていた。次のステップに至る予感がある」と受け止めた。

 地元での成功をステップに次の舞台が決まった。来年6月、米ミネソタ州で公演する。被爆県に生を受けた2人の音楽家は、米国民へのメッセージを歌曲に乗せて届ける。

=2018/11/08付 西日本新聞朝刊=

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