普賢岳山頂に陸軍のレーダー基地 15メートルの送信塔や兵舎建設、国立公園の自然を破壊 [長崎県]

普賢岳山頂に建てられた木製の送信電波用の塔。冬場は霧氷に覆われることもあった(植木和憲さん提供)
普賢岳山頂に建てられた木製の送信電波用の塔。冬場は霧氷に覆われることもあった(植木和憲さん提供)
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普賢岳山頂付近に残る監視哨の跡地(植木さん提供)
普賢岳山頂付近に残る監視哨の跡地(植木さん提供)
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加藤家に残る元和さんの日記
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雲隊が利用した貯水槽。今も仁田峠近くにある
雲隊が利用した貯水槽。今も仁田峠近くにある
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仁田峠付近に建設中の兵舎前で記念写真に収まる関係者(植木さん提供)
仁田峠付近に建設中の兵舎前で記念写真に収まる関係者(植木さん提供)
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 太平洋戦争中、大陸から飛来する米軍の大型爆撃機B29をいち早く捕捉するため、雲仙・普賢岳の山頂(1359メートル)に陸軍の電波探知基地が設けられた。機材を運び上げる作業道を発破で岩を砕いて切り開き、木製の送信電波用の塔(高さ約15メートル)を建設。手付かずの広葉樹林が残る普賢岳一帯は日本初の国立公園として戦前から自然環境の価値が認められてきたが、戦争はこうした国民の財産も簡単に踏みにじった。

発破で岩砕き、樹木伐採

 兵舎は、今の仁田峠駐車場付近に設けられ、陸軍の西部軍第8074部隊(緒方成男隊長、約100人)が駐留。部隊の暗号名は「雲隊」とされた。

 かつて緒方隊長(故人)に取材し、県高校教職員組合島原支部の機関誌で基地の詳細な報告論文を発表した元歴史教諭の植木和憲さん(71)=雲仙市国見町=によると、雲隊は1943(昭和18)年6月に進駐。レーダー施設や兵舎の建設を突貫工事で進め、同年秋には基地が完成。雲仙岳から約300~400キロ離れた五島・福江島から韓国・済州島沖の空域を監視できたという。

 工事では、まず仁田峠からの作業道を通した。「大きな岩は発破で崩し、樹木を伐採して切り開いたそうです」。斜面を滑らかにしてコロを敷き、2トンもある送信機などを人力で引き上げた。送電線用の高電圧ケーブルは長さ300メートル。運ぶために約300人が必要で、地元住民も連日動員された。

 基地では24時間体制で敵機の監視を続けたが、冬場は塔が凍り付き電波の発信に支障が出ることもあった。44(同19)年夏、陥落したサイパン島にB29の基地が建設され、中国大陸方面を警戒する必要性が薄れたことから、同年11月に雲隊は普賢岳から撤収、機材も運び出されたという。

島原藩「山留役」の日記に軍の記述

 山頂一帯は「原始性の高い落葉広葉樹林」の価値が評価され、28(同3)年に国の天然記念物に指定されていた。34(同9)年には「日常体験シ難キ感激ヲ与フルガ如キ傑出シタル大風景」(国立公園選定方針)として、国立公園の第1号になった。

 国立公園の歴史に詳しい西田正憲・奈良県立大名誉教授(67)によると、日本の国立公園は林業や電力開発(ダム建設)など産業との共存を前提に誕生。権力を持つ軍部との摩擦を避けるため、雲仙とともに国立公園になった瀬戸内海では、水面下の選定過程で軍事施設がある多数の区域が指定から外された。普賢岳の電波探知基地建設に際しても「軍国主義の中、国立公園当局も何も言わなかったのでは」と推測する。

 島原藩の「山留(やまどめ)役」として雲仙岳の山林を保全してきた加藤家13代の元和さん(故人)の日記には、軍事機密だった「雲隊」の記述がある。「少尉に命ぜられし戸の材木、水槽の運搬をなし」「雲隊の電線架断」「雲隊引き揚げ。見送りす」-。あえて書き留められていたことを、15代目の宗俊さん(63)は「代々守ってきた山を傷つけることに反対もできず、じくじたる思いだったのだろう」と祖父の胸中を推し量る。

ホテル・旅館も接収、温泉街が「軍の町」に

 軍が進出したのは普賢岳だけではない。雲仙温泉街にあった11のホテルと旅館も佐世保海軍病院の雲仙病棟などとして接収され、500人以上の傷病兵が療養生活を送った。

 雲仙地獄そばの九州ホテルは、外装の「Kyusyu Hotel」を塗りつぶすように命じられた。温泉街から一般客の姿が消え、軍の町となった。

現在も自衛隊には「有事」特例が

 戦時中は、国家総動員法や戦時行政特例法などにより、国家が国民の権利を制限した。実は、現在でも他国からの攻撃などの有事に備えて制定された「有事関連法」で、自然公園法など20法令に関して、自衛隊の行動を適用除外とするなどの特例が認められている。国立公園内に陣地を築くことも可能なのだ。

 普賢岳山頂付近には基地の監視哨の一部が今なお残っている。

=2019/01/17付 西日本新聞朝刊=

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