筑紫書体 情感の曲線 九州生まれの「明朝」注目集まる デザイナー藤田重信さん

パソコンで文字をデザインする書体デザイナーの藤田重信さん=福岡市のフォントワークス
パソコンで文字をデザインする書体デザイナーの藤田重信さん=福岡市のフォントワークス
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優しくフラットなイメージの「筑紫明朝」
優しくフラットなイメージの「筑紫明朝」
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シャープさとクラシックな味わいを兼ね備えた「筑紫ゴシック」
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 私たちが日頃使う「文字」にもデザイナーがいる。書体制作会社「フォントワークス」(福岡市)の書体デザイナー藤田重信さん(60)=福岡県筑紫野市=は「筑紫(つくし)書体」を考案。書籍カバーなど広く社会で使われる人気書体となった。近年も新しい書体を発表し続け、これまで監修を含め携わった書体は約130種類に上る。「今後も情感が湧くような書体をつくりたい」と語る。

 ベストセラーになった自己啓発本「嫌われる勇気」(ダイヤモンド社、2013年)。表紙の文字で使われたのが「筑紫明朝」だ。本の装丁を手掛けたブックデザイナーの吉岡秀典さん(41)は「明朝体だが現代的な雰囲気があり、優しく、フラットで広く人に伝わる。なかなか代わりはない」と話す。

 筑紫書体の特徴は曲線にある。藤田さんは「人間の手は線を真っすぐに書けない。人の体を横から見たように、S字の曲線を入れた方が表現が豊かになる」と説明。近年も「筑紫アンティーク明朝」など筑紫シリーズを次々発表し、書籍や広告、商品パッケージなどに幅広く使われている。

 藤田さんは高校のデザイン科を卒業後、教師の勧めで写真植字機メーカー「写研」(東京)に就職。創業者が手掛けた「石井明朝」に魅了された。「心臓がバクバクするほどほれた」という。実は、石井明朝は九州に縁がある。「築地5号」という築地活版製造所(東京)の書体が基になっており、同製造所は長崎市出身の「近代印刷の祖」とされる本木昌造(1824~75)が開いたものだ。

 その後「自分なりの明朝体をつくりたい」とフォントワークスへ。書体をデザインするアイデアは「子どものころから美しいと思ったり、かっこいいと感動したりした形が頭の中にある」。例えば筑紫明朝の「り」は、クマゼミに似ているという。漢字の「子」の「はね」の部分は1回ではねず、3段階に角度を付けて、はねた。自動車の2代目「カローラ」の後部の形などがヒントになったという。

 筑紫書体の第1弾となる「筑紫明朝」は制作に約5年を費やし、2004年に発表した。書体に「筑紫」の名前を用いたのは「生まれ育った地で、古くは九州全体を意味したため」という。さらに自分の書体をつくる「夢がかなった」と感じたのは「筑紫オールド明朝」だという。「文字は印刷のために四角い枠に収められてきた。文字が持つ自然の形に戻し、毛筆の動きが見える文字にしたかった」。書体は10年にデザイナーらでつくる東京TDC賞を受賞した。

 デザインにはコンピューターを使い、通常は書体の制作には最低でも1年がかかる。3人一組で9千字以上をデザイン。同じ書体を見続けると印象が残るため、途中2カ月ほど日数を空けて再確認する。

 書体デザイナーの魅力は何か。藤田さんは「世の中の文字は手書きか、書体の二つしかない。手書きが減る今、書体は情報だけではない何かを加えるすごく重要な役割がある」と言う。今後も筑紫シリーズや新しい書体に挑戦する予定だ。「つくりたい書体を数えたら、実現にはあと10年はいりそうです」

 藤田 重信氏(ふじた・しげのぶ)筑陽学園高デザイン科卒。写研を経て1998年、書体制作・販売の「フォントワークス」(福岡市)入社。現在は書体デザインディレクターを務める。同社は4人のデザイナーが所属し、外部人材とも連携。書体の使用権を販売する。米アップルのパソコンで使われる書体もあるなど、デジタル分野に強みがある。

=2017/05/11付 西日本新聞夕刊=

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