「ごみ屋敷」の住人、セルフネグレクト? 認知症や生活意欲喪失が発端 専門家「地域で声掛け孤立死防げ」

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岸恵美子教授
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 大量のごみを自宅にため込んだ「ごみ屋敷」。その住人は、周囲の指摘に耳を貸さない変わり者と思われがちだが、認知症や生活意欲の喪失が原因となっている場合がある。何らかの理由で身の回りのことをしなくなり、SOSの発信力も低下した「セルフネグレクト(自己放任)」の状態に陥ってしまった人たち。東邦大(東京)看護学部の岸恵美子教授(公衆衛生看護学)は「地域のさりげない見守りなど一歩前に進んで手を差し出すことが大事」と指摘している。

 ■推計約1万1000人

 聞き慣れない「セルフネグレクト」は「ネグレクト」に「セルフ(自分)」を付けた造語。他者の世話や介護、育児などを放棄するネグレクトではなく、自分自身の世話を放棄してしまう状態のことだ。「心身の安全や健康が脅かされ、人権も侵害されている状態。放置すれば孤独死する可能性が高く、緩やかな自殺の入り口だ」と岸教授。不衛生な住環境の「ごみ屋敷」もこの一つという。

 内閣府の2011年の調査によると、セルフネグレクトに陥っている高齢者は推計で約1万1千人。ただこれは氷山の一角で、岸教授は先進国の米国の調査事例を基に「200万~300万人がセルフネグレクトの可能性がある」との見方も示した。

 ■配偶者の死でも

 なぜセルフネグレクトに陥ってしまうのか。岸教授はこれまで関わった事例を紹介した。

 息子と暮らす女性は年を取るにつれ、ごみ出しや炊事が面倒になってきた。息子から「おまえは役立たずだ」と繰り返しののしられ、次第に「自分は価値のない人間」と考えるようになり「枯れるように死にたい」と望むようになった。これは息子に遠慮、気兼ねして声を上げることができなくなったケースだ。

 ある男性は分別して出したごみに対して、近所の女性に分別方法が悪いと指摘された。次第にごみを出すのが怖くなり、気が付けば家の中はごみまみれ。近隣住民とのトラブルが引き金だった。

 岸教授によると、認知症や物忘れ、精神疾患など病気に起因するのが約3割。そのほか、配偶者など親しい人を亡くす、リストラ、地域からの孤立、世話になりたくないというプライドや迷惑をかけたくないといった日本人特有の考えが邪魔するケースなど、理由はさまざまだ。そしてこう指摘する。「これは誰にでも起こりうることです」

 ■信頼関係築いて

 ごみ屋敷を巡っては自治体が相次いで条例を制定、15年には京都市が全国で初めて行政代執行でごみを撤去し、話題になった。

 自分から支援を求めない人、SOSの発信力が低下した人をどう救うか。岸教授によると、セルフネグレクトに陥った人は、訪ねても会おうとしない▽雨戸やカーテンが閉め切ったままになっている▽外で姿を見掛けなくなった-などさまざまな「サイン」を出しているという。

 「地域住民や地域包括支援センターの職員がアンテナを高くして、早く見つける。定期的な訪問を続け、助けを求めない理由を探り、信頼関係を築いて必要な支援につなぐことが大事だ」と岸教授。「さりげない見守り」「ちょっとした声掛け」「少しのおせっかい」を心掛けて、手を差し伸べれば「孤立死を防ぐと同時に、地域コミュニティーの再生にもつながる」と話した。


=2017/09/08付 西日本新聞夕刊=

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