ミサイル備え現実的? 長崎で「着弾後」想定訓練 「危機感あおる」被爆者ら疑義

倒壊家屋からけが人を運び出す訓練をする消防隊員。左は着弾した想定の模擬ミサイル=22日午後、長崎県雲仙市
倒壊家屋からけが人を運び出す訓練をする消防隊員。左は着弾した想定の模擬ミサイル=22日午後、長崎県雲仙市
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 国や長崎県などは22日、他国からの「武力攻撃事態」を想定した国民保護訓練を同県雲仙市で実施した。北朝鮮情勢が緊迫する中、国民保護法に基づく同訓練で初めて、弾道ミサイルが着弾した後の関係機関の初動対応を確認。初参加の自衛隊が有害物質検知など危険度の高い役割を担った。

 ミサイル2発が着弾し、重軽傷者が出ているとのシナリオに基づき、22機関と地元住民の計約240人が参加。全国瞬時警報システム(Jアラート)を模した音声が流れ、着弾したミサイルの模型付近から煙が上がる中、防護服を着た自衛隊員はミサイル燃料に含まれる有害物質の飛散の有無や、周辺を除染する手順を確かめた。住民の避難誘導、搬送にも当たった。

 午前中は、県庁などで関係機関がミサイル発射後の連絡態勢を確認する図上訓練も行われた。

 今年3月の秋田県男鹿市を皮切りに、全国各地で実施されている弾道ミサイル飛来を想定した住民避難訓練。22日にあった国と長崎県による国民保護訓練には初めて自衛隊が参加、有事に備える訓練の主眼は、住民避難という予防策から、着弾を前提とした事後対応にシフトした。北朝鮮の脅威を念頭に今後も訓練を「進化」させたいとする国の姿勢に対し、地元の被爆者らは「非現実的な内容で危機感をあおる」と批判の声を強めている。

 長崎県雲仙市の有明海近くの埋め立て地。地面に突き刺さったような模擬ミサイルに防護服をまとう自衛隊員が迫る。搭載の恐れがある化学物質を検知し、除染する訓練。背後では小銃を持つ別の隊員が目を光らせていた。「どこに敵が潜んでいるか分からない。『戦争状態』なんです」。訓練原案を策定した県危機管理課の担当者が説明した。

 2004年の国民保護法成立に伴い各自治体はテロなど「緊急対処事態」を想定した訓練に取り組む。ミサイルを想定したシナリオは秋田が初。7月の茨城県龍ケ崎市では自衛隊の防衛出動が可能となる「武力攻撃事態」を想定した内容に格上げされた。国は回を重ねるたびに訓練内容を深めており、23回目を数える長崎では初めて着弾後の対応を課題に据え、銃を携えた自衛隊が姿を見せた。

 各地の訓練を所管する内閣官房の末永洋之参事官は「長崎のように協力してくれる自治体はありがたく、訓練(の幅)を広げたい」と記者団に説明。今後の訓練に敵国との武力衝突を想定した内容を盛り込むことも否定しなかった。

 訓練の意義や想定には懐疑的な見方もある。元外務省国際情報局長の孫崎享氏は12日に長崎市内で講演し「ミサイルが撃ち込まれることを心配するのではなく、撃たせないよう外交努力を重ねるべきだ」と指摘。長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA)の鈴木達治郎センター長は「北朝鮮の脅威は今に始まったわけではなく、政府は危機感をあおっている。日本も核武装した方がいいとの声すら聞こえる」と懸念する。

 雨の中、県内外の約150人が訓練を見学した。長崎市の被爆者森口貢さん(81)は「原爆投下でひどい被害を受けた長崎が、こんな訓練を受け入れた理由が分からない」と憤った。

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■国側「訓練実績残したい」

 「武力攻撃事態」の想定で、初めて自衛隊が出動したミサイル着弾後の国民保護訓練について、内閣官房と長崎県は終了後の記者会見で「大変有意義な内容だ」と強調した。

 内閣官房の末永洋之参事官はミサイル発射を繰り返す北朝鮮の脅威に触れ「安全保障環境が厳しさを増す中、たとえ(ミサイル着弾が)万が一の確率であっても備えは必要」とし、同県の豊永孝文危機管理監は「(北朝鮮を)県民の多くが危機と感じている。訓練をしないと一層不安を募らせてしまう」と続けた。

 ただ、着弾したミサイルが発する恐れのある化学物質の検知、除染などは通常の災害対応と同様に対処できるとされる。自衛隊の防衛出動を可能とする武力攻撃事態をあえて掲げる必然性があるのか。政府関係者からは「事態が緊迫する中で、とにかく訓練の実績を残しておきたい、という思いがあったのは事実だ」との声も聞こえる。

 中村法道知事は16日の定例会見で「さまざまな事態を想定した訓練が必要」と述べ、こう加えた。「国のお勧めもいただき、今回は武力攻撃事態としております」

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■起こりえない想定だ

 軍事ジャーナリストの前田哲男氏の話 もし化学兵器による攻撃を想定しているのなら、表面温度が数千度になる弾道ミサイルでは化学兵器は変性し、無害化される可能性が高い。核ミサイルならそもそも近づけない。現実に起こりえない想定で模擬弾まで用意して想像力豊かな演習を行っており、住民に不安を与える目的としか考えられない。行政がこんなばかげた訓練に参加することもありえない話だ。

■避難方法周知に必要

 軍事アナリストの小川和久氏の話 VXなど揮発性の低い化学兵器は弾道ミサイルにも搭載できる。北朝鮮は日本や米国にミサイルを撃ち込もうとしているわけではないが、偶発的に攻撃が起きないとは言えない。政府には国民を守る義務があり、災害訓練と同様に広く周知し、避難の仕方を身に付けてもらう必要がある。今回は模擬弾などで象徴的に演出したのだと思うが、知ってもらうためには意味のあることだ。

【ワードBOX】武力攻撃事態

 日本が他国から攻撃を受けたか、攻撃が切迫している事態。政府は具体例として(1)船舶からの上陸侵攻(2)弾道ミサイル攻撃(3)ゲリラ・特殊部隊による攻撃(4)航空機による攻撃-の4類型を示している。武力攻撃事態対処法に基づき、首相は国会の承認を経て、自衛隊に防衛出動を命じることができる。

=2017/11/23付 西日本新聞朝刊=

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