成仏できぬ廃屋の怪 崩壊寸前の「お化け屋敷」 撤去費に課題、悩む行政 【あなたの特命取材班】

特命取材班が訪れた大牟田市中心部にある廃屋。伸び放題の草木に囲まれ、今にも崩れ落ちそうだった
特命取材班が訪れた大牟田市中心部にある廃屋。伸び放題の草木に囲まれ、今にも崩れ落ちそうだった
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 「兄が住む実家の隣に、お化け屋敷のような廃屋があるんです」。福岡県内の女性から特命取材班に無料通信アプリLINE(ライン)でSOSが届いた。「今にも倒れてきそうで怖い。解体してほしいけど持ち主が分からなくて…」。現場を歩くと、「空き家列島」と呼びたくなる深刻な現状が見えてきた。

 同県大牟田市の中心部。白壁のアパートや一戸建てが立ち並ぶ一画に問題の廃屋があった。伸び放題の草木に覆われ、屋根も壁板も斜めに崩れ、瓦が所々剥がれ落ちている。玄関に表札はあるが引き戸には板が打ち付けられ、人けはない。

 女性の兄が隣に転居してきた数年前には、既に今のような状態だったという。「熊本地震で崩れなかったのが奇跡。放火も怖いので警察に相談したけど、パトロールしか手の打ちようがないと言われた」と嘆く。

 周辺で聞き込みをしてみると、近所に住む初老の男性が「10年ほど前まではご夫婦が住んどったけど、ご主人が亡くなって、奥さんは子どもの家に身を寄せたはず」と教えてくれた。転居先を調べたが、親族に会うことはできなかった。

 法務局で廃屋と土地の「登記事項証明書」を申請してみて、驚いた。建物はなぜか「登記情報が存在せず」。そして土地の所有者は、なんと「大牟田市」-。

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 「もちろん把握しています」。大牟田市役所で、建築指導課の谷本卓也課長が困ったように話した。

 登記によると、廃屋のある土地の所有権を市が承継したのは1917(大正6)年3月。市は個人情報を理由に詳細を明かしていないが、戦後の住宅難の中で土地を民間に貸し、50年ごろに家屋が建てられたという。なぜ建物が未登記のままなのかは分からない。

 周辺住民からの苦情もあり、市は廃屋の所有者側に接触した。解体には80万円ほどかかる。補助制度や銀行ローンも紹介して解体を促したが、費用を負担できないと断られた。市有地なので土地を売って費用を捻出してもらう方法もとれない。瓦の落下防止など緊急安全措置をしつつ、解決方法を模索中という。

 かつて「炭都」として栄えた同市は、石炭産業の衰退とともに人口が流出し、空き家は年々増えている。

 谷本課長は言う。「もっとひどい状態の空き家も、たくさんあるんですよ」

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 総務省の住宅・土地統計調査によると、全国の空き家は年々増加し、2013年時点で約820万戸。このうち約318万戸は売却や賃貸など再利用の見込みもない。23年ごろには住宅の5軒に1軒が空き家になるとの試算もある。

 九州の現状はどうか。特命取材班は、15年施行の空き家対策特別措置法に基づき、対策計画を策定した九州7県の58自治体に電話取材した。集計すると、倒壊の危険性が高い空き家は少なくとも計5432戸に上ることが判明。残る他の自治体を含めると、実数はこの数倍に膨らみ、地域の荒廃につながる恐れがある。

 右肩上がりの経済成長と人口増が続く時代、マイホームは日本人の夢の一つだった。高齢化と人口減が進む今日、それらは空き家となって日本社会に重くのしかかっている。各自治体は専門部署を設け、民泊施設に活用するなど試行錯誤を続けているが、増加に歯止めはかかっていない。

 特別措置法は、市町村が強制撤去する権限を認めたが、私有財産だけに慎重さも必要。国土交通省によると、代執行で空き家を撤去したのは全国で13件(昨年10月現在)にとどまる。

 「所有者による解体が大原則。安易な代執行は『行政が壊してくれる』とモラルハザード(倫理観の欠如)を招きかねません」。大牟田市の谷本課長はそう話した。代執行は公共事業扱いになり、今回の廃屋の場合、費用は200万円ほどに跳ね上がるという。行政の苦悩は深い。

=2018/01/21付 西日本新聞朝刊=

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