まるでグランドピアノ 家庭用ピアノで弾き心地再現 匠の技術、世界に挑む 本場ドイツの職人も称賛

グランフィールピアノと開発した藤井さん
グランフィールピアノと開発した藤井さん
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藤井さんが開発したグランフィールのバネ
藤井さんが開発したグランフィールのバネ
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1月にドイツで行われた認定技術者の研修(藤井ピアノサービス提供)
1月にドイツで行われた認定技術者の研修(藤井ピアノサービス提供)
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 家庭で親しまれるアップライトピアノが極小のバネを取り付けるとグランドピアノのような弾き心地に-。鹿児島県薩摩川内市のピアノ販売店「藤井ピアノサービス」が開発した画期的な装置が国内にとどまらず、海を渡りドイツでも広がろうとしている。社長の藤井幸光さん(62)は「ピアノの本場でも通用すると信じている」。九州で生まれた匠(たくみ)の技術が世界に挑んでいる。

 装置の名はグランドピアノの感覚との意味を込めた「グランフィール」。主に家庭で練習用に使われるアップライトピアノはスペースをとらず、安価な一方、鍵盤を元の位置に戻さなければ音が出にくく、特に弱音の連打が難しい。子ども向けコンクールを主催していた藤井さんが「本番で慣れないグランドピアノをうまく弾けない子どもが多い」と感じて新たな技術の開発を思い立った。

 以来、故障せずコストも抑えられる装置となるよう研究を重ね、内部に長さ約4センチのバネを取り付ける単純な構造の装置を2009年に完成させた。連打性能に加え、音色も広がった。着想から3年。「太さや長さを変え、特製ペンチで曲げたバネは数万本。手のひらにピンポン球くらいのたこができた」と笑う。

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 機械いじりが大好きな少年だった。ピアノ歴はなく高校中退後に自動車修理工場に勤務。だが、高校時代の恩師の勧めで19歳から浜松市のピアノ修理工房で働き始めて転機を迎えた。

 一般家庭にピアノが普及した時代。工房にはフランスやドイツなど欧州中のピアノが集まった。100年超の年代物など設計図のないピアノを解体、修理する日々。鍵盤を押し、テコの原理でハンマーを動かして弦をたたく。シンプルな仕組みながら各国の職人が作り上げたピアノは素材や形が異なり、それぞれの創意工夫が詰まっていた。

 1989年に故郷、薩摩川内市で独立した藤井さんは「世界の職人の技術を見たからこそ、新たな発明につながった」と振り返る。

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 2010年、日本の特許を取得。販売を始めたグランフィールは15年にものづくり日本大賞の内閣総理大臣賞を受けた。取り付けできる認定技術者は全国に約170人。後付け型を中心に900台近く普及している。

 「ピアノの本場で自分の技術は通用するのだろうか」。職人としての情熱に突き動かされ、欧州や米国で特許を取得した。16年、ドイツの見本市に出展を計画中、世界三大ピアノメーカーの一つ、ベヒシュタイン社の目に留まった。同社の耐久試験を経てドイツの部品メーカーが装置を採用することに。昨夏から現地で技術者講習を進め今年1月、約100セットを輸出した。「素晴らしい発明。尊敬する」。本場の職人たちからたたえられた。「この技術が必要と思ってくれる人がいる限り確実に普及する」。そう信じる藤井さんは言う。「ものづくりに終わりはない。もっと創意工夫できないか。改善を続ける」

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 グランフィールの価格は後付けで20万円、組み込んだ新品は84万円から。8日、藤井ピアノサービスでグランフィールも使うピアニストの演奏会(入場料2500円、要予約)がある。同社=0996(25)3320。

=2018/03/03付 西日本新聞朝刊=

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