旧優生保護法の「強制不妊」九州1755人 救済へ実態解明急務

福岡県優生保護審査会の議事資料には、委員の所見として「不良な子孫の出生を防止する」「遺伝の可能性もある」などと記されている(写真の一部を加工しています)
福岡県優生保護審査会の議事資料には、委員の所見として「不良な子孫の出生を防止する」「遺伝の可能性もある」などと記されている(写真の一部を加工しています)
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 旧優生保護法(1948~96年)下で精神疾患などを理由に不妊手術が繰り返されていた問題で、本人の同意なしで手術を強いられた人が、九州7県で少なくとも1755人に上ることが分かった。西日本新聞が国立国会図書館に保管されていた旧厚生省の衛生年報などを分析、集計した。7県のうち、手術を受けた個人名が記載された優生保護審査会の資料を一部保管しているのは福岡、大分、長崎の3県のみ。当事者の救済や実態解明に向けた自治体の姿勢が問われそうだ。

 強制不妊手術は、同法に基づき医師が申請し、有識者で構成する都道府県の優生保護審査会が可否を決定していた。

 同法が「母体保護法」に改定された96年までの国の衛生年報や優生保護統計報告などによると、保護者の同意が不要な遺伝性疾患を理由に手術を受けた人は、全国で1万4566人、7県で計1573人。大分県が最も多く648人。福岡県309人、宮崎県194人と続く。

 保護者の同意が必要な非遺伝性疾患を理由に手術を強いられた人は全国で1909人、7県で計182人。熊本県が最多で81人、次いで福岡と宮崎両県がそれぞれ35人だった。全国で最後に手術が行われたのは福岡県(92年)だった。

 国の統計資料の不備で都道府県別の人数が不明な時期もあり、実際の数はもっと膨らむ可能性がある。

 佐賀、熊本、宮崎、鹿児島各県は、実名の記載がある資料は現存していないと説明。福岡県はこれまで統計資料が残っていないとしていたが、最近になって庁舎内に保管されていたことが判明し、精査中という。

 優生保護法はナチス・ドイツの「断種法」の考えを取り入れた国民優生法(41年施行)が前身で、「不良な子孫の出生防止」が目的。知的障害や精神疾患、遺伝性疾患などの男女に対し、人工妊娠中絶や本人の同意がない不妊手術を認めた。国の通知では身体拘束や麻酔薬の使用、だました上での手術も認めていた。

■「貞操感なく育児は困難」差別表現あらわ 審査会議事資料 医師、判事ら署名

 「不良な子孫の出生を防止する」「貞操感なく育児は困難」-。西日本新聞が入手した福岡、大分両県の優生保護審査会の議事資料には、偏見や抽象的な所見に基づく差別表現が目立つ。こうした記述の多くには医師や地方議員、司法関係者らの署名があった。

 本紙が開示請求して入手した審査会の議事資料は、福岡共同公文書館(福岡県筑紫野市)が保管する1980、81、96年度分と、大分県公文書館(大分市)に残る57、60年度分。いずれも当事者である個人名は黒塗りで、診察した医師による強制手術申請書、当事者の健康診断書、家族構成や病状を示した文書などを含む。

 福岡県の議事資料によると、80、81年度は「委員の日程の都合上、早期に開催できない」として審査会の会合を開かず、20~39歳の男性2人、女性4人について書類による持ち回り審査で不妊手術を決めていた。

 このうち20歳の女性(申請時19歳)は、医師が「精神薄弱」を患うとして手術申請書を提出。母親の同意書のほか、「本人に貞操感がないので職員が監視中」などと発病後の経過を記す文書と、「父親はアルコール中毒、母親の妹は精神分裂病で入院中」とする遺伝調査書も付けていた。

 審査会は県医師会長や県議会議員、高裁判事、地検検事、元大学教授らで構成。20歳の女性については、民生委員を務める委員が「貞操感のないことで育児などの生活はできにくい。遺伝の可能性もある」との所見を出し、手術を認めていた。「精神薄弱」「小頭症」などとされた22歳の男性についても、検事は「不良な子孫の出生を防止する必要がある」として手術を「可」と判断した。「男に誘惑されやすい」「(不妊手術は)公益上必要である」という表現もあった。

 一方、大分県は57、60年度に不妊手術をしたとみられる計101人分の資料があったことを既に公表。今回入手した議事資料にも、個人名が黒塗りされて記載されていた。

 審査会が判断材料にしたとみられる調査書は、当事者の行動や入院歴について詳細に記録。「精神分裂症」と診断された男性について「痴人」という表記があった。「精神分裂病」と診断された女性に関する意見では「子供は産まない方がよい」との記述もあった。

 福岡、大分両県の資料とも、本人同意の有無を確認する項目はない。

=2018/03/09付 西日本新聞朝刊=

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