原発テロ被害、政府が極秘研究していた 「最大1万8千人急死」予測も

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 福島第1原発事故を受けて策定された原発の新規制基準には、テロや航空機衝突への対応が盛り込まれている。実は30年以上前、政府は国内の原発が攻撃を受けた際の被害予測を極秘に研究していた。当時の「警告」はどこまで生かされているのか。

 被害予測は、外務省が外郭団体「日本国際問題研究所」に委託し、1984年に報告書にまとめられた。81年、イスラエル空軍がイラクの研究用原子炉施設を爆撃し、原発攻撃の脅威が注目されていた時期だ。

 原発の核燃料は、厚さ2メートル近い鉄筋コンクリートの格納容器の壁などで保護されている。報告書は特定の原発名には触れずに100万キロワット級と想定。爆弾の貫通力を高めれば格納容器の壁は破壊されると指摘する。

 その上で、電気系統と冷却機能を失った場合、放射性物質が周辺の都市部に拡散。緊急避難しなければ最大1万8千人、5時間以内に避難した場合でも同8200人が急死すると予測した。長期的には放射性物質セシウムで汚染され、原発から最大約87キロ圏内で住めなくなるという。

 報告書は「反原発運動などへの影響を勘案」(外務省担当課長)して部外秘扱いとされ、福島の事故発生後まで未公表だった。

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 実際の対策はどうか。

 2月23日、原子力規制委員会の山中伸介委員が九州電力玄海原発(佐賀県玄海町)を訪れた。九電が昨年12月に設置を申請した「特定重大事故等対処施設(特重)」の建設予定地を視察するためだ。

 特重は、テロなどで重大事故が起きた際の対応拠点として、新規制基準で整備が義務付けられた。九電の計画では、航空機がぶつかっても機能を保てる建屋を造り、発電機や制御室、冷却用貯水槽を配置する。

 もっとも、特重はあくまで原子炉を冷却する機能が損なわれた際、事故対応に活用するバックアップ施設だ。原子炉や格納容器自体の補強ではない。新規制基準は、航空機が衝突する確率が「1千万年に1回」を超えない限り、原子炉施設の補強は求めていない。

 例えば航空機が格納容器にぶつかった場合、衝撃に耐えられるのか。山中委員は視察後、報道陣の問いに「機密事項が含まれ、答えられない」と述べた。

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 「原発は、発電コストをいかに小さくできるかという経済性を最優先に設計している。設計条件に、攻撃を受けても安全という項目はなかった」

 原発メーカーに35年間勤め、設計や保守点検に携わった元技術者の小倉志郎さん(76)=横浜市=は、そう指摘する。盲点となるのは、使用済み核燃料を貯蔵する燃料プールだという。

 小倉さんによると、核燃料には強い放射性物質がため込まれているが、燃料を覆う金属製の被覆管は薄くて損傷しやすい。プールのある補助建屋も攻撃に耐えられる構造ではない。

 84年の報告書について、原子力規制庁の担当者は「初期条件や詳細な内容が分からず、事故対策には活用していない」と説明。「原発への攻撃は規制庁の守備範囲を超える。武力攻撃事態対処法や国民保護法で対処するものだ」と話す。

 九電は「格納容器や補助建屋などの重要設備は強固に設計している。具体的な強度は、セキュリティーの問題で答えられない」としている。

=2018/03/19付 西日本新聞朝刊=

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