「国境離島」に新たな雇用 施行2年目の新法効果 長崎6市町で358人

古民家を改修したペンシルのオフィスで仕事をするスタッフ=長崎県壱岐市郷ノ浦町
古民家を改修したペンシルのオフィスで仕事をするスタッフ=長崎県壱岐市郷ノ浦町
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 国境に近い離島を支援する「国境離島新法」の施行から1年が過ぎた。新法は人口が激減している離島の雇用拡充を重点政策の一つに据え、事業拡大や創業を交付金で支援する枠組みを用意。対象の離島が全国で最も多い長崎県では2017年度、新たに計358人分の雇用が生まれた。県は年間250人ペースで新規雇用をつくる計画を掲げ、都市部でのセミナー開催などを通じて企業の積極投資や島外からの人材確保を後押しする構えだ。

交付金活用のIT企業 「壱岐」に進出

 ITコンサルタントのペンシル(福岡市)は今年1月、長崎県壱岐市郷ノ浦町の築56年の古民家を改修して「サテライトオフィス」を開設した。子育て中の女性5人と定年退職後の60代の男性2人を島で雇用。コンサル業務を支援する調査・分析や報告書作成、メールマガジンの記事作成などを担ってもらい、インターネットを通じた壱岐の特産品販売も視野に入れる。

 都市部の人手不足が顕在化する中、同社はワークライフバランスを意識した多様な働き方、高齢化に対応する業務を探り、人材を確保する狙いもあって壱岐に進出した。事業拡大に最大1200万円を助成する新法の交付金も活用できた。

 スタッフの女性(31)は週3日の勤務で「仕事をしながら自分がしたいこと、主婦業もこなせて、とても助かる」。シングルマザーのスタッフ(33)は中学生の子ども2人を抱え、実家で両親と同居。以前は雇用期間が半年の市の臨時職員として働いていたが「高校で学んだ情報処理の技術を生かせる。ここでずっと働きたい」と笑顔を見せた。

長崎県「社会減5年間で半減」目標

 県のまとめによると、新法の雇用機会拡充を支援する交付金(17年度6億9千万円)を活用した関係6市町の取り組みでは、五島市147人、壱岐市80人、対馬市78人、新上五島町43人、小値賀町8人、佐世保市(宇久島、寺島)2人の計358人の雇用を創出。3月末時点で340人が就業し、うち23・5%に当たる80人は島外からの移住者だった。

 国境離島の転出数から転入数を差し引いた社会減は、新法施行前(15、16年の平均)の1018人減から、640人減(17年)に改善。県は「国境離島の社会減を5年間で半減」を目標としており、県地域づくり推進課は「移住政策や新法の施策の効果が表れている」と分析する。

 岐阜県から移住し、交付金を活用して五島市にオープンした飲食店の店長に就いた阿野正博さん(53)は「五島は働く場が多く、自然豊かな場所で子育てしたいと考えていた中で移住を決断できた」という。

高校卒業後、離島する若者なお多く

 一方で、高校卒業後に就職のため島を離れる若者はなお多く、計画通りの人材を確保できていない企業もある。長崎県内の人口(15年国勢調査)は1960年比で21・8%減少しており、離島に限ると62・0%の減。国境離島の活性化は多難の道でもある。

 県内では18年度も6億9千万円の国の交付金を確保。6市町の計137件の事業で281人の雇用を生むと試算する。県は東京や福岡などの都市部で島での創業・事業拡大や就業を促すセミナーを企画。島へのUターン者を含め、島外からの人材確保を重視した施策を展開している。

 五島市は4月下旬、新法を活用した振興策を話し合う「有識者懇話会」を初めて開催。市の担当者は「人口減少は地域の衰退に直結する。今後も雇用創出などで島に残る高校生や移住者を増やし、持続可能な島をつくる施策を進めたい」と話した。

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国防強化へ「自衛隊」誘致が活発化 経済波及効果も期待

 国境や領海を巡る情勢の緊迫化を踏まえ、新法は離島防衛強化を見据える。第5条には自衛隊も念頭に「行政機関の施設の設置に努める」と明記。長崎県の離島では隊員増による経済効果への期待もあり、自衛隊誘致の動きが活発だ。

 陸海空の自衛隊がそろう同県対馬市。比田勝尚喜市長や市議は3月下旬、防衛省で自衛隊増強に関する要望書を提出し(1)(対馬南部の)陸自対馬警備隊と同規模程度の運用部隊を(北部の)上島に配備(2)大型艦船等の接岸が可能な港湾施設整備(3)大型輸送機が離着陸できる滑走路整備-などを直接、働き掛けた。

 政府は今年末までに防衛力整備の指針「防衛計画の大綱」を見直し、2019年度から5年間の次期中期防衛力整備計画を策定する方針で、市側には次期計画に反映させる狙いがある。

 空自の分屯基地がある同県五島市では、市民団体が3月、地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の市への配備を求める約6千人の署名簿を野口市太郎市長に提出。国境の防衛と島の活性化を考える上で、配備は島民の安全と安心を守るためにも有効な手段だと主張した。

 要望したのは、市の商工関係者などでつくる「国境の島(五島福江島)に陸上自衛隊を誘致し離島防備と島の活性化を図る有志の会」。

 野口市長は「陸自誘致は国境地域の防備になり、隊員が住むことで人口減少の抑制と地域経済活性化にもつながる」との考えで、政府に重ねて「陸自誘致と空自分屯基地の整備拡充」を訴えてきた。有志の会にも「国にしっかり伝えたい」と応じた。

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【ワードBOX】国境離島新法

 議員立法で成立し2017年4月1日に施行、効力は10年間。日本の領海や排他的経済水域(EEZ)管理のため「有人国境離島」の保全を国の責務と明記。特に維持が必要な長崎や鹿児島など8都道県71島を「特定有人国境離島」とし、雇用拡充や航路運賃引き下げなどに充てる交付金を創設した。長崎県内の特定有人国境離島は対馬(対馬市)、壱岐島(壱岐市)、宇久島(佐世保市)、福江島(五島市)など40島。

=2018/05/21付 西日本新聞朝刊=

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