観光地の獣道、避難路に 明媚なリアス海岸続く佐伯市 巨大津波に備えて利用

東九州道建設時の作業道だったという大分県佐伯市蒲江丸市尾地区の避難路。緑に覆われ、まさに獣道だ
東九州道建設時の作業道だったという大分県佐伯市蒲江丸市尾地区の避難路。緑に覆われ、まさに獣道だ
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米水津湾や鶴見半島を一望できる「空の展望所」=20日、大分県佐伯市米水津
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佐伯市蒲江丸市尾地区の避難用〝獣道〟入り口。うっそうとしている
佐伯市蒲江丸市尾地区の避難用〝獣道〟入り口。うっそうとしている
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 風光明媚(めいび)なリアス海岸が続く大分県の南端・佐伯市。一方、発生が迫っているとされる南海トラフ巨大地震では、最高約15メートルの津波が襲ってくると予想されている。そんな中、避難経路として、普段は使わない“獣道”を使って生き延びようという動きがあると聞いた。観光地を防災の視点から見ると-。さっそく歩いてみた。

 東九州道の蒲江インターチェンジ(IC)から車で南に約10分。静かな入り江と美しい浜辺を横目に見ながら、最初に向かったのは、佐伯市蒲江丸市尾(まるいちび)地区。普段は釣り客や新鮮な魚を食べに多くの観光客が訪れる景勝地。しかし万一、巨大地震が起きると最高13・5メートルの津波が34分で到達すると予想されている。

 「獣道の避難道があるって本当ですか?」。同地区の児玉和康区長(70)に尋ねた。「よし、付いてきて」早速案内してもらった。

 名護屋湾沿いに、車で国道388号を南下する。内陸側へ曲がり、住宅が点在する山あいの草地にたどり着いた。この先、道があるようには思えなかったが、草木に覆われた入り口をくぐると、まるでジブリ映画に出てきそうな森に、階段と手すりが設置された小道があった。

 あたりは、ひんやりとした空気に包まれている。風に木がすれる音を聞きながら、段差が低い階段を上る。数分歩くと「五郎坂」(海抜15メートル)という市指定の避難地につながった。

 児玉区長によると、この道はもとは獣しか通らない所だった。約10年前、東九州道を作る際、作業員が仮設道として利用した。「ここを使えば、避難時間が短縮できるのではないか」。地区の住民で検討し、手すりや階段を設置した土木会社に話を持ちかけると、工事終了後に無償で提供されることになった。

 この道のおかげで、それまでは津波が迫る名護屋湾に出て五郎坂に向かう必要があったが、安全に短時間で避難可能となった。

   ◆    ◆

 次に向かったのは北東に約30キロの同市米水津(よのうづ)色利(いろり)浦地区。ここも最高約11・5メートルの津波が36分で到達するとされている地域だ。1707年の宝永地震では20人の死者を出した記録もある。

 ここの市指定避難地のひとつが「愛宕神社」(海抜38メートル)。背丈程まで伸びきった草とは対照的に、真新しい舗装の階段が約120段設けられていた。運動不足がたたってか、傾斜がきつめの道に息が切れてしまったが、同区で救護班を担当する磯田佐一さん(65)はすいすいと上っていく。

 今田今義区長(70)の話では、階段が作られたのは去年のこと。それまでは「ただの急傾斜地でした」。愛宕神社に向かうには、住宅地から迂回(うかい)しないとたどり着けなかったため、住宅地からすぐに使える避難路を作ろうと、住民自ら道を切り開いたという。市は今年からこうした獣道の掘り起こしに着手。避難後の物資輸送路として活用することを検討中だ。

 米水津地区から続く海岸には、九州最東端の「鶴御埼(つるみざき)灯台」や映画「釣りバカ日誌」のロケ地ともなった「空の展望所」など観光スポットが連なる。360度の大パノラマが広がり、晴天時には四国も一望できる。地元の観光協会によると、若者の「インスタ映え」スポットにもなっているという。リアス海岸は新鮮な海の幸と青い海が魅力的だ。こんな美しい地で巨大津波など考えたくもないが、備えあれば、憂いなし。まばゆいばかりの景色を前に、そう実感した。

=2018/05/22付 西日本新聞朝刊=

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