“批判者の象徴”狙う? IT講師刺殺1週間 容疑者、ネットで複数と衝突

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 福岡市中央区の創業支援施設でIT関連セミナーの講師をしていた東京都の会社員岡本顕一郎さん(41)が刺殺された事件から1日で1週間。殺人などの疑いで逮捕された無職松本英光容疑者(42)は「ネット上(のやりとり)で恨んでいた」と供述しているが、被害者と直接面識はなく、本名すら知らない間柄だった。背景に何があったのか。

 「なんで低能先生が殺人事件起こした扱いされてんの。男性1人殺せるとは思えない」「低能先生はネット弁慶(ネットだけ強気な人)の象徴」

 東海道新幹線の車内で6月9日、乗客の男女3人が殺傷された事件の翌日。ネット上のブログに、松本容疑者を指すとみられる「低能先生」を犯人視する書き込みがあり、挑発するような投稿も相次いでいた。

 セミナーで福岡市を訪れていた岡本さんが殺害されたのは24日午後8時ごろ。その約2時間半後、同じブログに「挑発」への返信とも取れる犯行声明が投稿された。「おいネット弁慶卒業してきたぞ。『低能先生』の一言でゲラゲラ笑いながら通報&封殺してきたお前らへの返答だ」。直後、松本容疑者は同市東区の交番に出頭している。

 低能先生とはネット上で他人への誹謗(ひぼう)中傷を繰り返す人の総称。「ほんとお前は低能だよな」などと頻繁に書き込むことから名付けられたという。松本容疑者もそんな「低能先生」の一人だったとみられる。

 弁護士などによると、松本容疑者は九州大に8年間在学した末に除籍となり、福岡県内の製麺工場に就職。2012年に退職してからは自宅にこもりがちになり、ネットに依存する生活を送っていたという。

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 岡本さんはITセキュリティー専門のネットメディアの編集長を務める傍ら、「Hagex(ハゲックス)」のハンドルネームでネット上のトラブルを追う有名ブロガーとして活動していた。5月2日には自身のブログで「低能先生にお下劣な言葉を定期的に投げかけられている」と被害を明かし、対策としてサイト管理会社に通報してアカウントを停止させる手順を紹介。「管理会社は低能先生を威力業務妨害で訴えるべきだ」とも提言していた。

 だが「低能先生」の攻撃に対抗していたのは岡本さんだけではなかった。他のブロガーも4~5月、誹謗中傷を繰り返す発信者の個人情報を明かすよう管理会社に対して情報開示を請求。集団提訴への参加を呼び掛ける動きも出ていた。

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 松本容疑者の「恨み」の対象は複数いたと考えられる中で、なぜ岡本さんが狙われたのか-。

 岡本さんとは10年来の友人という神戸大大学院の森井昌克教授(情報通信工学)は「自分を批判した人たちの象徴として、有名ブロガーの岡本さんを狙ったのではないか」と指摘。立正大の西田公昭教授(社会心理学)は「顔の見えないネット社会で増幅された憎悪の対象のうち、唯一特定できた岡本さんに怒りの矛先が向けられたのではないか」と分析した。

 接見した弁護士によると、松本容疑者は岡本さんを狙った具体的な理由を明らかにしていないが「(岡本さんが4月24日に東京で開いた)前回のセミナーの内容を見ておいてください」と話したという。そのセミナーのテーマは「炎上した時の対処方法。炎上屋から学ぶ鎮火術」だった。

=2018/07/01付 西日本新聞朝刊=

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