戦争遺跡保護に歴史認識の壁 九州の1000件中、対象は65件 割れる評価、行政及び腰

大分県宇佐市が史跡指定している宇佐海軍航空隊落下傘整備所。外壁には機銃掃射の痕が残る(宇佐市教育委員会提供)
大分県宇佐市が史跡指定している宇佐海軍航空隊落下傘整備所。外壁には機銃掃射の痕が残る(宇佐市教育委員会提供)
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熊本市内の竹林から見つかった飛行機の格納施設「掩体壕」の遺構。中央の窪地に機体を置き、敵機から隠す屋根もあったという。造成予定地でいずれ消失する見通しだ
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 敗戦から73年がたち、戦禍の記憶が薄れる中、旧日本軍の施設遺構など「戦争遺跡」の保護の在り方が課題になっている。軍事的要衝が点在した九州には千件以上の戦跡が残るとされるが、文化財保護法に基づく保護対象となっているのは九州7県で計65件にとどまる。国の保存基準がなく、文化財としての価値判断が困難と考える傾向が自治体にあるほか、戦跡によっては日本の加害責任を巡る歴史認識の違いから市民の反発を招く懸念もあり、行政側が及び腰になっている事情がある。

 戦争遺跡は一般的に太平洋戦争終結までに建造された軍の司令部や飛行場、軍需工場跡などを指すが、公的な定義はなく文化庁も集約していない。自治体の把握状況もまちまちで、西日本新聞が九州各県に確認したところ、福岡505件(暫定数)、長崎56件、宮崎46件。大分、熊本、鹿児島、佐賀は未把握だった。

 戦跡を保護する場合、その他の文化財と同様、文化財保護法に基づき学術的価値の裏付けなど一定の条件下で国や自治体の文化財指定などを受けるのが一般的。原爆遺構で構成する「長崎原爆遺跡」など国史跡に指定されたケースもある。

 現在、保護対象となっている九州の戦跡は計65件。内訳は福岡25件、長崎3件、熊本1件、大分9件、鹿児島25件、宮崎2件、佐賀はゼロだった。しかし、民間研究団体「くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワーク」などの調査では熊本約700件、大分約100件が判明しており、九州全体では優に千件を上回る戦跡があるとみられる。

 保護が進まない背景には、考古学などの知見が蓄積した古代や中世の遺跡に比べ、戦跡は学術的価値を判断しにくいと考える自治体側の事情もある。長崎県川棚町は水上特攻艇が訓練した「川棚魚雷艇訓練所跡」について、「詳しい史料が残っておらず住民に保護を求める声も少ない」として保護措置を取っていない。

 一方、特攻隊の中継基地となった旧陸軍大刀洗飛行場跡がある福岡県筑前町は「戦争について『自衛』『侵略』といった認識の違いで戦跡の評価が分かれることもあり、積極的に保護してこなかった」と説明。現在、保護の網がかかっていない「三菱重工業熊本航空機製作所」(熊本市)の地下工場跡も、朝鮮人への強制労働など加害の歴史を抱えるとされる。こうした現状に対して文化庁職員は「政治的にデリケートな面がある。国が自治体に保護を促すのは難しい」と明かす。

 調査が不十分なまま解体や老朽化が進む例も。熊本市東区の私有地では1月、敵襲から飛行機を隠す格納施設「掩体壕(えんたいごう)」(幅最大20メートル)の遺構が竹林伐採を機に確認された。民間団体の調査で、米軍から沖縄の飛行場を奪還する「義烈空挺(くうてい)隊」が出撃した旧健軍飛行場関連の唯一の遺構と判明。団体は市に発掘調査や記録保存を要望したが、市は「国の保存基準はなく価値も定まっていない」として応じていない。造成予定地のため、このままでは遺構は消失する見通しだ。

 一方、特攻隊が編成された宇佐海軍航空隊の遺構が残る大分県宇佐市は保存に熱心だ。落下傘を製造したとされる建物など7件を文化財として保護。市教育委員会は2015年度に空襲跡が残る小学校の塀をはじめ戦跡29件の保存整備計画を作り、観光にも生かすという。担当者は「戦跡は戦争の脅威や悲劇を伝える格好の存在。住民の保存への意識も高い」と説明する。

 福岡県教委は昨年9月、戦跡の場所や保存状況の調査を開始。19年度に報告書をまとめ、価値が高い戦跡は市町村に保護を促す。九州の戦跡に詳しい「戦争遺跡保存全国ネットワーク」の高谷和生さん(63)は「いよいよ戦争経験者が減る中、歴史の検証材料となる戦跡の価値を行政はもっと見直すべきだ。住民も積極的に働き掛けてほしい」と訴えている。

=2018/08/16付 西日本新聞朝刊=

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