沖縄戦 日本軍の闇 ドキュメンタリー映画「沖縄スパイ戦史」九州公開

「沖縄スパイ戦史」より(C)2018『沖縄スパイ戦史』製作委員会
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三上智恵監督は語る。「また沖縄が戦場にされそうになっている。まさかこんな時代を迎えるなんてと思うし…」
三上智恵監督は語る。「また沖縄が戦場にされそうになっている。まさかこんな時代を迎えるなんてと思うし…」
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大矢英代監督
大矢英代監督
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 第2次大戦末期、国内で唯一、地上戦が行われた沖縄で、日本軍が10代半ばの少年たちをゲリラ部隊として組織し、多くの犠牲者を出した史実などを記録したドキュメンタリー「沖縄スパイ戦史」(114分)が、九州各地で公開されている。監督は三上智恵さんと大矢英代さんの2人で本年の製作。戦争に民間人を協力させ、不要になると米軍への情報漏えいを恐れ処刑した、日本軍の恐るべき所業を描き出している。

 ▼少年集めてゲリラ戦

 地元の戦史研究家らによると、沖縄には1944年秋、陸軍中野学校出身の青年将校42人が派遣され、約千人の少年を集めて二つの「護郷(ごきょう)隊」を編成。沖縄で軍の組織的な戦いが終わった45年6月23日の後も本島中北部の山でゲリラ戦に従事させ、160人の犠牲者を出した。

 「沖縄スパイ戦史」は、証言する元隊員たちの映像を中心に構成。銃弾に無残に倒れた少年兵らの痛ましい写真や動画なども挟み、身震いするような臨場感をつくり出す。

 ある元少年兵は米軍を急襲時、手りゅう弾の破片であごを負傷し、その後、戦死者の埋葬を担った。終戦後、30年以上、強いPTSD(心的外傷後ストレス障害)で突然暴れだす症状に苦しみ、座敷牢(ろう)につながれたこともある。

 このほか、精神的に不安定になった少年兵が毛布をかぶせられ銃殺されたとの証言や、「(分隊長が)ある少年兵をスパイと決めつけ、幼なじみの少年兵たちに『撃て』と命じた」と語る戦史研究家の映像も盛り込んだ。

 ▼寝返り恐れ住民処刑

 中野学校出身者が関わったのは、護郷隊だけではない。男たちの応召後、波照間島に残った高齢者や女性、子どもたちを、西表島のマラリア多発地域に強制疎開させ、3分の1の感染死者を出した事件に関する証言も記録した。

 「沖縄スパイ戦史」ではさらに、本島北部に潜んだ「敗残兵」が有力住民に秘密監視組織をつくらせ、密告させて住民処刑を重ねた事件も掘り起こす。住民の寝返りを恐れ処刑を繰り返す日本軍。「友軍が怖かった」との証言や、疑心暗鬼となって保身に走る人間の業をにじませる証言も記録した。三上監督は「証言を取りにくく、誰かを傷つけることになる。悩ましかった」と撮影を振り返る。

 ▼「軍隊は住民を守らず」

 「標的の村」をはじめ、米軍基地問題や沖縄戦を題材にしたドキュメンタリーの製作で知られる三上監督。今作は同じ沖縄のテレビ局・琉球朝日放送出身の大矢監督と組んで製作。三上監督は「地対艦ミサイル部隊の配備計画など、南西諸島の軍事要塞(ようさい)化の動きは座視できない。二度と沖縄を戦場にしてはいけない。沖縄戦の経験から処方箋を描き出し、剛速球を国民に投げかけたいと思った。軍隊は住民を守らないというのが、沖縄戦の最大の教訓だ」と話す。

 住民を守らず軍務を優先した旧軍の論理は今、完全に途絶えたのか、問題提起も含んでいる。「沖縄戦のことを忘れたらまた地獄が来ますよ」という元護郷隊員の言葉が重く、鋭く響いてくる。

    ☆    ☆

 九州での上映は、熊本市のDenkikanが24日まで。福岡市のKBCシネマは9月22日に公開、三上監督が舞台あいさつする。

■「戦争への坂道 引き返すのは今」 三上智恵監督に聞く

 これまで沖縄戦のドキュメンタリー製作を通じ、なぜ死んでいかなければならなかったのか、沖縄の人々の叫びをたくさん聞いてきた。沖縄を二度と戦場にしないと思い生きてきたが、南西諸島の軍事要塞化の動きに焦りを感じている。中国が怖い、北朝鮮が怖いと、国民がこれだけ軍隊に守ってほしいと「集団ヒステリー」のように叫ぶ状態は戦後初めてだ。

 米国立公文書館や沖縄県公文書館が所蔵する、米側撮影の沖縄戦の写真や動画を、「沖縄スパイ戦史」には数多く織り込んだ。インタビューと紙資料だけでは十分に伝わらない。

 それぞれの話と直接関係ない可能性があるものも使った。倒れた少年兵の写真は、護郷隊なのか鉄血勤皇隊などなのか不明のものもある。しかし、生の映像だから体感できるものがある。沖縄が二度と戦場にならないために自分たちの映像を生かしてくれたら、亡くなった人たちも怒ることはないのではないか、と思い切った。

 今、次の戦争に向けて坂道を転がり落ちているとしたら、引き返すタイミングをこの映画で、というぐらいの勢いで作った。本土の皆さんも、対岸の火事ではないと考えてほしい。 (談)

=2018/08/17付 西日本新聞夕刊=

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