“脱エリート”東大卒の27歳、被災地で奮闘 星空ツアーやカヤック…次々実現 熊本県南阿蘇村

観光協会の事務局長として働く久保尭之さん。新たな観光商品を次々に形にしている
観光協会の事務局長として働く久保尭之さん。新たな観光商品を次々に形にしている
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久保さんが実現に携わった田んぼカヤック体験の会場=熊本県南阿蘇村
久保さんが実現に携わった田んぼカヤック体験の会場=熊本県南阿蘇村
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 人口減少、高齢化など、地方が抱える課題が急速に深刻化する熊本地震の被災地。そんな流れに歯止めをかけようと、熊本県南阿蘇村では基幹産業・観光の立て直しが進む。縁の下で支えるのは「エリート街道」を抜け出した東大卒の若者だ。地域の資源を見つけ、どう発展させるか。次世代の感覚で生き残り策を探る。

 農家を巡るレストランバス、雪山トレッキング、夜の草原で星空を楽しむツアー、水を張った田んぼを進むカヤック…。この1年、南阿蘇村では地震前にはなかった新たな観光のスタイルが次々に生まれている。

 そのすべてに携わってきたのが鹿児島市出身の久保尭之(たかゆき)さん(27)。熊本地震直後に被災地に入り、みなみあそ村観光協会から請われて昨年末、事務局長に就任した。「目指すのは世界に誇れるような観光地型の農村。旅行者が関わることで豊かになる農村をつくっていきたい」

 自然環境に恵まれた阿蘇も、地震で交通インフラが被災。人口流出は続き、産業を支える人材の確保にあえぐ。「本当は30年かけて解決すべき課題が、急に目の前にやってきた感じ」。大災害が地域にもたらす厳しい現実が、人生を変える契機をもたらした。

 東京大工学部に在学中に東日本大震災が発生。現地で産業復興のボランティアに没頭した。卒業後は三菱重工業のエンジニアとして火力発電の開発に携わったが2年で退社し、東北に戻った。「被災地では逆境にもめげずに頑張る人がいる。自分も地域に関わる仕事がしたかった」。自身が「かっこいい」と思う価値観に従った。

 いい会社に勤め、いい洋服にいい車、そんな時代ではないと思う。むしろグローバル化、モノよりコト、地方創生、所有より共有…。そんな言葉があふれる今。「社会に貢献しながら難しい課題を解決するのがかっこいいという価値観が僕らの世代にはあるんです」

 南阿蘇村に住み、観光業者を束ねる役目を担うようになった。最大の課題は地震前よりも良い形に復興すること。その実現のために一つの方程式を示す。

 {地域資源+外部からのインプット}×思考量×実行力=社会へのインパクト

 実現させた新たな観光の目玉は、実は地域住民がもともと温めていたアイデアだ。「必要なのは地元の人の思いを形にするコーディネーター。誰かの『いつかできたらいいな』を、実現する推進力になるのが僕たち『よそ者』の役目だと思う」。地元のリーダーたちも期待を寄せる。再来年の営業再開を目指す地獄温泉「青風荘」の河津誠社長(56)は「ともに村の観光復興を目指す仲間。心強い味方を得た」と手を携える。

 久保さんが目指す次の手は、農業と観光を結び付けた旅行商品の開発。まだまだ仲間は足りず、村内の空き家を購入し、同じ志を持つ人たちが集う拠点をつくる計画だ。「会社に入るとまず3年頑張れとよく言われるけど、地域での3年はもっと成長できる。これから人生を地域にささげる人が増えていけばうれしい」

 そんな「かっこいい」仲間を、村で待つ。

=2018/08/29付 西日本新聞朝刊=

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