【沈黙の島から カネミ油症発覚50年】(3)「隠して生きる」手帳で

障害者手帳を手にするカネミ油症の未認定被害者の男性。奈留島では障害者手帳の保有者が多いという
障害者手帳を手にするカネミ油症の未認定被害者の男性。奈留島では障害者手帳の保有者が多いという
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 およそ4人に1人。長崎県・五島列島にある奈留島で、民生委員を務める60代男性が、独自に調べた数字を示してくれた。島北東部にある汐池・永這(ながはえ)地区の住民全70人のうち、身体障害者手帳を持つ人の割合だ。これに対し、地区にはカネミ油症の認定患者は1人もいない。

 住民は心臓疾患や難聴、神経障害などさまざまな病を患う。「おれも心臓を手術した」。男性が胸のシャツをめくると、30センチの真っ赤な手術痕。「小さな集落なのに、重病人が多すぎる」

 油症被害が発覚した1968年、食用油は貴重だった。人々は天ぷらを作った残りの油まで、うどんに入れ、炒め物に使った。隣近所で分け合うことも多く、男性は「島でカネミの油を食べなかった人はいない」と言い切る。

 国の調査や統計を合わせると、65歳以上で身体障害者手帳を持つ人の割合は「11・4人に1人」。同地区の数値は確かに、飛び抜けている。

 油症の患者認定を受けない代わりに、障害者手帳を持つ被害者もいる-。男性はそう類推する。「油症と認められても、名誉あることじゃなか。隠して生きる人は多い」

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 2016年春。水俣病の被害者救済を続ける藤野糺(ただし)医師(76)が、この地区に入った。カネミ油症患者だと行政に認定されていない「潜在患者」の実態を調べるためだ。藤野医師が求めた協力に、多くの住民が拒んだ。「関係なか」「油症はもう過去の病気だから」

 島には、カネミ油症との関わりをひた隠しにする風潮がある。医療費をもらう認定患者へのやっかみ。子や孫の結婚、就職への影響の心配。いわれなき差別、偏見への恐れ…。

 島北部で暮らす認定患者の70代女性は、近所の子が遊びに来た時、その親に「あそこの家で食べ物をもらうな」と言われていることを知った。未認定の親族には顔を合わせても無視された。親族は女性の家族の法要も欠席したという。

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 今年7月、島の保健センターで開かれたカネミ油症の一斉検診。受診に来た55人には、未認定の被害者30人が含まれていた。検診は国の委託を受け、県が年1回実施している。検診の結果は、患者認定を受ける際の判定材料にもなる。

 「島では検診を受けに行くだけで、金目当てと言われることもある」。役場の関係者が、実情を打ち明ける。奈留島の人々には、油症はそれほど「難しい問題」なのだという。

 ただ、人口の約1割の222人が認定患者の島で、ここ3年ほど、検診を受ける未認定の被害者は増加傾向にある。「まずは検診を受けやすい環境づくりが必要。油症の被害者が、堂々と名乗り出られる地域を目指さなければ」。役場関係者がつぶやいた。

=2018/10/06付 西日本新聞朝刊=

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