強制不妊は「人権蹂躙」 熊本訴訟初弁論で原告男性訴え 国は棄却求める

弁論後の記者会見で涙ぐみながら話す渡辺数美さん=10日午後5時すぎ、熊本市中央区
弁論後の記者会見で涙ぐみながら話す渡辺数美さん=10日午後5時すぎ、熊本市中央区
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 旧優生保護法(1948~96年)下で不妊手術を強制されたのは自己決定権や婚姻の自由などを保障する憲法に違反し、救済措置も怠ってきたとして、熊本県の渡辺数美さん(73)が国に3300万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が10日、熊本地裁(小野寺優子裁判長)であり、国側は請求棄却を求めた。

 渡辺さんは意見陳述で、不妊手術を理由に結婚を諦め、2度自殺未遂をしたと話した。「本当に残念な人生でした。いくら国でも一生懸命に生きている個人の人権を蹂躙(じゅうりん)するようなことをしたらいかんです」と目をうるませながら訴え、国に謝罪を求めた。

 旧法を巡っては、超党派議員連盟や自民、公明両党の合同ワーキングチームが救済法を検討中。意見陳述した東俊裕弁護団長は「内容次第では十分な救済ができずパフォーマンスに終わる。金銭的解決だけでなく、現在もはびこる優生思想をなくす政策を行わなければ個人の尊厳は回復しない」と強調した。

 弁護団によると、国は答弁書で、国家賠償請求制度があるため被害者の救済措置を立法化しなかった国会の不作為は違法ではないと主張。損害賠償請求権が消滅する20年の除斥期間も過ぎたとした。旧法による手術の違憲性については触れておらず、小野寺裁判長は国側に認否を明らかにするよう求めた。

 訴状によると、渡辺さんは幼少期に変形性関節症になり、10~11歳の頃に血尿が出て訪れた県内の病院で同意がないまま両睾丸(こうがん)を摘出された。15歳の頃に母から優生手術だったと知らされ、その後は睾丸摘出によりホルモンバランスが崩れて骨の強度が低下するなどの損害を受けたと主張している。手術の記録などは見つかっていない。

 この日、熊本地裁は原告側の要望を受けて法廷に車いす用の傍聴スペースを確保するなど障害者に配慮した対応をした。

 旧法を巡る国家賠償請求訴訟は、今年1月に全国で初めて宮城県の60代女性が仙台地裁に起こした。その後、渡辺さんを含む男女12人が札幌、仙台、東京、大阪、神戸、熊本の各地裁に提訴している。

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「懸命な人生が台無し」 原告の渡辺数美さん

 「一生懸命に生きている人の人生を台無しにしたらいかんですよ」。原告の渡辺数美さんは証人席で繰り返した。

 変形性関節症により脚が不自由な渡辺さんは、右手につえを持ち、弁護団に体を支えられながら入廷した。睾丸(こうがん)の摘出によりホルモンバランスが壊れ、成人後も伸び続けた身長は190センチを超える。一方でもろくなった骨は、長身を支えきれない。証人席へも、2人の弁護士に介助され、右脚を引きずった。

 「(国には)一言でも謝ってほしい」。意見陳述の声は、緊張で硬かった。書面に目を落としながら「みじめな人生だと思ったが、いまこうして裁判ができ、私はようやく自分の人生にも意味があったかもしれないと思えるようになった」。とつとつと語り「生きている間に判断が出てほしい」と訴えた。

 渡辺さんが、感情を高ぶらせたのは弁論後の会見だった。裁判を通し「障害者と健常者が分け隔てなく、幸せに暮らせる国になってくれたら」と話すと頬が紅潮。「歯を食いしばってやっとこさ一人で生きてきた。今よりかもう少し、弱い者の味方をする国になってほしい」と絞り出すと、こらえきれず涙をこぼした。

 隣の席では、ポリオ(小児まひ)のため車いす生活を送る東俊裕弁護団長が目を真っ赤にしていた。東弁護士は会見後に「障害者の人権軽視は(自身も)何度も経験した。勝ち負けも重要だが、障害者の人権を軽んじる歴史があったことを裁判を通して示していきたい」と強調した。

 熊本地裁には、県内の障害者団体や水俣病関係者が駆け付けた。11歳で神経障害を負った高田あんりさん(35)は車いす席で傍聴。「障害者になってから冷たい視線を向けられたり、役所で子ども扱いされたりした経験を思い出した。今回の裁判を機に一歩ずつ平等な社会に近づいてほしい」と話した。

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【ワードBOX】旧優生保護法

 ナチス・ドイツの断種法に倣って作られた国民優生法を前身とし、1948年に制定された。「不良な子孫の出生防止」を目的とし、各都道府県の優生保護審査会が認めた場合、本人の同意なしで手術できるよう規定していた。96年に障害者差別に当たる条文を削除し、母体保護法に改正された。厚生労働省によると、旧法の下で不妊手術を受けた人は約2万5千人に上り、このうち強制的に手術されたとみられるのは約1万6500人。九州の内訳は、福岡344人、佐賀86人、長崎51人、熊本204人、大分663人、宮崎229人、鹿児島178人。

=2018/10/11付 西日本新聞朝刊=

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