「なぜ水が消えた」まるでブラタモリ 被災地のインフラ新ツアー

ボートで立野峡谷を巡る。谷をまたぐ南阿蘇鉄道の第1白川橋梁は地震で被災し、架け替えが予定されている
ボートで立野峡谷を巡る。谷をまたぐ南阿蘇鉄道の第1白川橋梁は地震で被災し、架け替えが予定されている
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阿蘇大橋の崩落現場では、対岸の山腹の復旧工事がよく見える
阿蘇大橋の崩落現場では、対岸の山腹の復旧工事がよく見える
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ツアーでは建設中の立野ダムにある工事用トンネルも見学した
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 2016年4月の熊本地震で大きな被害が出た南阿蘇村で、観光復興に向け、復旧工事の現場などを訪ねる「インフラツーリズム」を軸にした新たな旅行商品が誕生した。産官学が連携して開発した「南阿蘇観光未来プロジェクト」。好きな人には“刺さる”ちょっとマニアックな内容という。東京発の1泊2日のツアーに参加して魅力を探った。

■クイズ形式の案内は「ブラタモリ」を意識

 11月の土曜日午前、熊本空港。羽田空港から飛行機で到着した約30人はバスに乗り込み、阿蘇外輪山を訪れた。まずは俵山展望所。阿蘇ジオパークガイドの児玉史郎さん(67)が説明を始めた。

 「今立っている場所が世界有数の阿蘇カルデラの縁です。ここならではの特徴が分かりますか?」

 児玉さんは、眼前にそびえる阿蘇五岳と足元との間に広がるカルデラ大地を指さし、問い掛けた。

 「人が住んでいる?」「カルデラ湖がない!」。次々に解答が飛び出す。「その通り。ではなぜ水が消えたと思いますか?」

 この展開、何かに似ている。NHKの人気番組「ブラタモリ」だ。クイズ形式で好奇心を高めようと同番組を意識しているという。「答えはあそこにあります」。カルデラの切れ目にあたる立野峡谷へ向かった。

■崩落大橋跡地、秘湯や鉄道にも地震の影響

 地震で崩落した阿蘇大橋の跡地。対岸では山腹崩落の復旧工事が進んでいるが、あちこちに生々しい被災の傷痕が残る。

 横浜市から参加した男子高校生(15)は「まだこんな状態だとは知らなかった」と驚いた。ここでの死者は1人。近くで被災した「語り部」の広瀬顕美(あきみ)さん(70)は「もし地震が日中だったら犠牲者がどれだけ多かったか」と話した。失われたのは地域の大動脈だった。

 近くの道路には数十センチの横ずれ跡が保存されている。児玉さんは「何万年も前にこうした活断層の動きが繰り返されて谷ができ、カルデラ湖の水が流れ出た」と地形の謎解きをした。大昔から自然災害にさらされてきた土地なのだ。

 ここでは国土交通省九州地方整備局が立野ダムを建設中。ボートで峡谷を巡った後、ダム建設用のトンネル内を見学した。「建設中のダムを間近で見るのは初めて」と神奈川県の女性(38)は興奮気味。住民の反対運動もあるが、村は「ダムを造るからには観光に生かそう」と九地整と活性化策を練ってきた。

 翌日は、阿蘇山腹で被災した地獄温泉「青風荘」へ。200年続く秘湯は、20年4月営業再開のめどがようやく立ったところ。周辺道路の被害が復旧を阻んできた。締めくくりに乗車した南阿蘇鉄道も、全線17・7キロのうち10・5キロがまだ運休中だ。地震の影響は今も色濃く残っている。

■「震災の傷痕と復興のつち音知って」

 ツアーを企画したのは跡見学園女子大(東京)で観光学を専攻する学生たちだ。村や旅行会社ジャルパックと協力し、半年かけて作り込んだ。プロジェクトリーダーの高浜希衣(きえ)さん(22)は熊本市出身。傷ついた故郷の力になりたいとの思いで携わってきた。「震災の傷痕と復興のつち音を多くの人に知ってもらいたい」と力を込めた。

 今後の課題は、この商品を地元にどう根付かせるか。企画に携わった、みなみあそ村観光協会の久保尭之(たかゆき)事務局長は「ツアーに携わる人をどう確保するか知恵を絞りたい」と話す。

 ツアーに参加して見えたのは、地震が奪ったインフラの重要性と、復旧の先にある南阿蘇の未来だった。復興への歩みは今しか見られない。多くの人が訪れ、記憶にとどめてほしい。

=2018/12/16付 西日本新聞朝刊=

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