諫干「司法と政治」の役割は 開門判決確定8年、遠い解決 打開策は…学者が提言

共同研究を進めてきた横浜国立大大学院の(左から)宮沢俊昭教授、西川佳代教授、御幸聖樹准教授
共同研究を進めてきた横浜国立大大学院の(左から)宮沢俊昭教授、西川佳代教授、御幸聖樹准教授
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 国営諫早湾干拓事業(長崎県)を巡り、潮受け堤防排水門の「開門」を命じた2010年の福岡高裁判決が確定してから8年が過ぎた。国側は別の司法判断を盾に判決を履行せず、事態は膠着(こうちゃく)。今年7月には、同じ福岡高裁が確定判決を事実上「無力化」させる判決を出し、解決はますます遠ざかった。司法、政治はその役割を果たしてきたのか。解決の道筋はあるのか-。横浜国立大や佐賀大などの研究者が調査、分析し打開策を探った共同研究が、法学専門誌に特集された。

■7人の共同研究、法学専門誌が特集

 タイトルは「諫早湾干拓紛争の諸問題-法学と政治学からの分析」。「法学セミナー」(日本評論社)11月号で、7人が60ページにわたり、論文や弁護団インタビューを執筆した。

 「開門」「非開門」の司法判断が両立した「ねじれ状態」が続き、開門してもしなくても国側が制裁金を支払う-という状態が続いていた諫干問題。7月の福岡高裁は、この“自己矛盾”を解消させたように見えるが、裁判は終わらない。

 当事者が変われば開門を巡る訴訟は次々に起こせるため、「ねじれ解消」も解決には結び付かない。地裁や高裁の和解勧告による協議も、裁判所側が当初から国側の主張に合わせた「非開門」の前提に立ったことで当事者同士が折り合わず、決裂に終わった。

■「当事者、争点増やして和解交渉を」

 「裁判所が持つ心証と異なる和解案の提示は難しい。開門の是非という争点に立つ以上、通常の和解の手法には無理がある」と指摘するのは横国大大学院の西川佳代教授(民事手続法)。裁判外紛争解決手続き(ADR)などを挙げ「どちらか一方だけを説得するのではなく、当事者や争点を増やした上で取引や交渉をする和解手続きは考えられないか」と提言した。

■「特別法制定で利害調整は可能」

 同大大学院の御幸聖樹准教授(憲法)は「裁判所より政治による解決が適している」と主張。最も利害の調整が可能な解決法として特別法制定を挙げた。しかし佐賀県は開門、長崎県は開門反対を掲げ、自治体間で立場が分かれているため、現実として動きは低調だ。

 一連の訴訟は今後、最高裁の判断が注目される。三つの裁判が係属しており、御幸氏は「裁判所からのメッセージで動きだす可能性もある。国民の信任を受けた政治家が解決に向けた責任を引き受けるべきだ」と強調した。

■問われる「司法と国家」の存在意義

 1997年の潮受け堤防閉め切りから21年。紛争長期化の理由として、佐賀大の樫沢秀木教授(環境法)は論文で、計画段階からの事業目的・規模の変遷、諫干事業が漁業不振の原因ではないかという漁業者の疑問に対し、国や司法が正面から答えていないと指摘。「司法と国家の存在意義が厳しく問われている」と苦言を呈した。

 紛争解決機関としての裁判所の役割には限界もある。2008年から諫干問題の研究を続ける横国大大学院の宮沢俊昭教授(民法)は「裁判所は最終的には判決で判断せざるを得ないため、争点を切り取ってしまう」と解説。「判決が開門、非開門のどちらに決まっても解決しない。訴訟の論点から落ちた将来の農業や漁業、地域振興などをどうしていくか、干拓事業を進めた国が地域のしこりをほぐしていくことが重要だ」と述べた。

【ワードBOX】諫早湾干拓事業の開門問題を巡る訴訟

 開門、非開門で司法判断にねじれがあり、最高裁には三つの裁判が係属している。(1)国が漁業者側に開門を強制しないよう求めた請求異議訴訟(2)長崎県の漁業者が国に開門を求めた訴訟(3)国に開門差し止めを命じた昨年4月の長崎地裁判決に控訴するため、第三者の漁業者側が「独立当事者参加」を求めた申し立て-の3種類。いずれも高裁段階で漁業者側が敗訴し、上告した。このほか長崎地裁では別の漁業者が開門を求めた訴訟、開門反対派だった営農者の一部が開門を求めた訴訟も続いている。

=2018/12/24付 西日本新聞朝刊=

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