安らぎの由布院再び 熊本地震で被災「山荘わらび野」15日営業再開 損壊の建物一新、ブランドへの誇り胸に

ツインの客室。シンプルな作りながら床暖房を取り入れるなど快適性を追求している
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木立の間に配置される山荘わらび野の宿泊棟。庭の造園はまだ途上だ
木立の間に配置される山荘わらび野の宿泊棟。庭の造園はまだ途上だ
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オープニングセレモニーで来賓の祝辞を聞く髙田さん一家。右から陽平さん、淳平さん、徳明さん、美紀さん
オープニングセレモニーで来賓の祝辞を聞く髙田さん一家。右から陽平さん、淳平さん、徳明さん、美紀さん
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 2016年の熊本地震で休業を余儀なくされた大分県由布市の旅館「山荘わらび野」が15日、約3年ぶりに営業を再開する。全従業員を解雇し、廃業も頭をよぎった支配人高田陽平さん(42)を支えたのは「由布院ブランド」の一翼を担ってきたプライドだった。

 湯の坪街道など観光客でにぎわう中心部から約2キロ。わらび野は大分自動車道湯布院インターチェンジに近い同市湯布院町川北の静かな山裾にある。1万平方メートルを超す敷地には、父徳明さん(68)が1988年の開業時に植えた雑木が疎林をなす。再開に当たって木造の建物は全て取り壊し、7棟13室の客室、レストラン棟、フロント棟を新たに建てた。

 「建物は全て鉄筋コンクリート。何十本もくいを打ち込み、基礎にかなり資金を投じた」と陽平さん。木立の間に立つ木造の和風建築は宿の理念にもコスト的にも合うが、「次の地震のことを考えれば、もう一度木造でとはならなかった」と語る。開業時の姿をとどめるのは雑木だけだが、緑に包まれた「由布院らしい」たたずまいは、しっかり受け継がれている。

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 前震が起きた4月14日夜、由布院は無事だった。翌日、1件のキャンセルを除き9組22人の宿泊客を迎え、高田さん一家も敷地内の自宅で床に就いたという。

 その深夜。16日午前1時25分に本震発生、由布院は震度6弱を記録した。「もっと揺れたと思う」。2階に寝ていた陽平さんの実感だ。枕元のスマートフォンがけたたましく鳴ったかと思うと「ドーン」と衝撃が突き上げ、縦揺れに続いて横揺れが襲う。枕で覆った頭に物が落ちてきた。階下で母美紀さん(66)の悲鳴がした。

 陽平さんは停電で真っ暗闇の中、スマートフォンの明かりを頼りに客室へ走る。「大丈夫ですか!」。張り上げた声に「大丈夫なわけないやろー」と返事がした。客室は停電時用電灯で明るかった。「上着を着てすぐに外へ」「ゴー・アウト!」。開かない部屋の扉を蹴破ると韓国からの女性グループが泣きながら震えていた。

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 幸い1人のけが人も出なかったが、露天風呂も離れも社員寮も全て損壊した。1カ月先まで予約をキャンセルし、5月下旬の再開を目指したものの、被害の詳細が分かるにつれて厳しい状況を突きつけられた。

 温泉の配管は破断、木造の建物は雨でさらに傷み修復は無理だった。4月下旬に休業を決断、18人の正社員ら全従業員を解雇した。被害が小さく、早く再開できた旅館や店舗もあったのとは対照的だった。

 両親が7室から始めて30年。自然の中でゆったりと「由布院時間」を楽しむ宿は、年間7千人以上を迎えるまでになっていた。高田さん一家にとって、由布院を盛り上げてきた自負があった。どんな形でも再び看板を掲げたい…。地震にやられたまま閉じるのは意地が許さなかった。

 低コストのゲストハウスという選択もあったが、高品質の宿の道を選んだ。それも誇り故だ。設計は理想と現実のせめぎ合い。「談話棟などいろいろ諦めても、なお建設費がかさんだ」。昨年1月には全てを白紙に戻しかけたが周囲の励ましで踏みとどまった。

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 9日、レストラン棟でオープニングセレモニーがあり、旅館仲間らが万感こもる祝辞を述べた。由布院玉の湯社長で由布院温泉観光協会の桑野和泉会長も、この日を待ち続けた一人だ。「わらび野さんは由布院らしさを体現してきた宿。この3年は、高田さん一家が由布院本来の姿を自問し続けた時間だったのではないか。その復活は私たちに勇気を与えてくれる」

 外国人客の急増など由布院観光の環境変化は著しく新たな課題も生じている。先人が築いたブランドを生かしつつ、自分たち世代の由布院をどうつくっていくか。陽平さんを支える弟淳平さん(39)は言う。「僕たちがバトンをしっかり握り始めた今、被災はむしろチャンスになると思った。建て替えていなかったら、30年前と同じ商売をしていたんじゃないか」。陽平さんも変革の必要性は感じている。

 現実は3年間のブランクによって予約は苦戦。被災前の売り上げ数年分の負債も抱える。それでも、陽平さんの信念は揺るがない。「わらび野があるから由布院に行きたいと思われる宿にしたい」。その思いを胸に、安らぎを求めて訪れる客を日々笑顔で出迎える。

山荘わらび野 大分県由布市湯布院町川北952‐1。電話=0977(85)2100。ホームページ=http://www.warabino.net/

=2019/02/14付 西日本新聞朝刊=

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